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ステラーの航海(原住民との遭遇) [海牛]

さて、「博物学者ステラーの航海」の続きです。
前回予告した通り、アラスカ半島西端の島で聖ピョートル号の一行は
アメリカ原住民との遭遇を致します。1741年9月のことです。

(あいかわらず、興味のない方もいらっしゃるでしょうから、
 また、函館の載せ残し写真を少しだけ載せます。)

IMG_6991.JPG

【これまでのあらすじ(オホーツク、ステラー海牛、ベーリングの航海)】
かつて北海道オホーツク海沿岸にアイヌに先立ちオホーツク人が暮らしていた。
海洋民族のかれらが食料にしたステラー海牛(かいぎゅう)は既にいない。
それは18世紀西欧世界の歴史に現れわずか27年で消えた幻の哺乳類である。

そしてこのステラー海牛を歴史に記録し、その結果、絶滅の引き金を引いたのは
その動物と、あとほんのわずかの鳥や哺乳類に名を残す、夭折のドイツ人博物学者
ゲオルグ・ヴィルヘルム・ステラーであった。

(もっと詳しく知りたい人は、サイドバーの「海牛」を全部読んで下さい!
 なお、もう一度書きますが、「うみうし」じゃなく、「カイギュウ」ですから。)

そもそもステラーの最初のアラスカ上陸の際にも居住跡を見つけてい
ましたし、姉妹船の聖パブロフ号も原住民に船員を殺されているし、
他の場所でも出会い、物品の交換もしていますし、この海域でも海岸の
焚火も見ておりますので、会えないことの方が不思議なくらいでした。

ですが、この出会いの直前にもキトロフが探検隊を組織し、ターナー島
(焚き火が見えた島)に向かっていますが、結局何も見つけられず、戻
っています(キトロフらは、それだけでなく嵐でボートが戻れなくなって、
余計な2日間を費やしたばかりか、原住民への供物としてもっていっ
た物品の半分を海に失うと言う様子で、いいとこなしでしたが)。

ところが、西へと向かおうとしたとき風向きが悪くて、たまたま立ち寄り
停泊したバード島で、聖ピョートル号へ漕ぎ寄る2艘のカヌーがありました。

革張りの細いカヌーはグリーンランドエスキモーのそれに似ていました。
聖ピョートル号のだれもが期待とともに見守りました。

カヌーの漕ぎ手は漕ぎ寄る途中からわからない言葉を叫びましたが、
聖ピョートル号のどの通訳もまったく意味を解しませんでした。
(通訳もいたのですね。探検隊はいろんな人たちを乗せているものです。)
そして、途中でカヌーから長い装飾された槍のようなものを出して、
こちら側の海に投げてよこしました。
それは好意的な意味か敵対的な意味かわかりかねました。
船からは中国製のキセル、絹の布、鏡、ガラス玉を投げ与えましたが
良く調べて後、漕ぎ手は興味がないのか投げ返してよこしました。

ただ、更に勇ましく船に近づき、口に手をあてたり、岸を指して腕を
振り、それはあたかも岸でご馳走してくれるかの様子に見えました。

そして、ワクセルはベーリングにはかり、ワクセルとステラーとそして
コリャーク(Koryak、カムチャツカの原住民)人の通訳と水兵9人が
ボートで島に向かいました。銃や他の武器を隠し持っていました。

島は、残念なことに岩だらけの海岸と穏やかならぬ海のため上陸は
諦めました。ワクセルはボートが壊れるのは避けたかったのです。
海岸のすぐ側までボートを寄せて、通訳とあと二人の水夫が服を脱ぎ泳
いで上陸しました。黒いひげもじゃで胸毛の濃いロシア人がです。

15分ほどの観察でありましたが、最初のアリュート(アリューシャン人?)
の記録をステラーはきちんと残しています。
島民は中背でがっしりしており、黒髪と黒い目で、丸い頭、扁平な顔、
低い鼻で突き出てめくれあがった口、男女の区別のない服をまとって
いました。またつくりの悪い鉄器をもっていました。

あいかわらず、贈り物として持って行きましたが、交易はうまくいかな
かったようです。ただ、島民は興味を持ち集まってきて、友好的な様子
でした。

出会いの挨拶にブランデーを一杯振舞ったところ、島の年寄りは、
いっき飲みしましたが、すぐに全部吐き出し、で、しらばっくれました。
ステラーは煙草や食べ物をこのような贈り物に使うことにたいしては、
欧州の揚げたキノコや発酵させた魚のスープやヤナギの皮を振舞う
のと同じだとして、批判的でした(今もヨーロッパでそのようなものが
食べられているのかは私は存じません。日本でも戦中の白人捕虜
に「腐った豆のスープや木の根ばかり食べさせる」との批判があった
ことは知っているのでイメージは掴めます。みそ汁ときんぴらですね)。


そのうち、波が荒くなる様子だったので、ワクセルは3人の上陸者に
戻るようにいいました。2名は泳ぎ戻りましたが、島民と似ている通訳
は戻ろうとすると引き止められ、争いになりました。それと熱心過ぎる
島民はボートに手をかけ引こうとし、そのため船は偶発的ではあるもの
岩にぶつかることとなりました。雲行きが怪しくなりました。
となれば、
ワクセルの指示で威嚇の銃が撃たれました。
突然の雷鳴に島民は驚き地にひれ伏し、通訳を離し、ボートは戻るこ
とができました。しかしながら、島民は石を投げつけ、もう友好的では
なくなり、ワクセルらはピョートル号に戻りました。


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ところが、驚いたことに翌朝、9艘のカヌーが同じようにやって来て
おなじように槍のようなものを投げかけ、また浜へと招く様子でした。
彼らは銃と言うものを知らなかったのでしょう。
ワクセルは彼らを捕囚とすることも可能だとして病床のベーリングに
提案しますが(何でそう考えるかわからないですが)、受け入れられず、
長く過ごしすぎたシュマギン諸島を後にすることにしました。

島を回って、離れるにあたっては、たくさんの焚き火がたかれ、
聖ピョートル号への壮行の儀式のようにも見えました。

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原住民との話はこのくらいのことです。
ネット情報には原住民とのトラブルもあったとありましたが、肩透か
しのような話ではあります。


さて、そして、
島から離れる様子は、ステラーの鳥の記述などもありなかなか
悪からぬ様子です。


ここは鳥ブログとしての自覚を持ち(じゃないんだけども)、
その辺りはそのまま英文と拙い訳を少し長く引用しましょう。
間違っているかもしれません。私の英語力はがんばってもこんな程度です。

 Everywhere the receding shore and the sea around them swarmed with waterfowl.
 Gulls and puffins and auklets circled the ship or rocked on the long green swells.
 Fulmars, which the Russians call gluphshior stupid fellow, lit unconcernedly in the 
rigging. Steller took particular note of "an entirely black snipe with red bill and
feet which constantly moved the head,"the black oystercatcher of the Aleutians,
and also a very beautiful black-and-white pied diver never before seen,"probably
the ancient murrelet which, unlike other murrelets,stays in black and white winter
plumage all year. Numerous whales plyed near the vessel, sometimes rising
upright in the water for more than half their length, a sign that dirty weather was
breeding.

遠ざかる海岸も周囲の海も水鳥でいっぱいでした。
カモメとツノメドリそして小さなウミスズメは船を囲み、あるいは長い緑色の
うねり波の上でゆられていました。
フルマカモメ(ロシア人の呼び方では「gluphshi」または「あほんだら」)は、
船の索具の上に無頓着にとまっていました。
ステラーは「絶えず頭を振る嘴と足の赤い真っ黒シギ」、アリューシャンの
黒いミヤコドリ、さらにとても美しい見たことのない白と黒の斑のアビ」を
特筆しています。恐らく他のウミスズメと異なり、黒と白の冬羽を年中とど
める、古いタイプのマダラウミスズメでしょう。
たくさんのクジラが、ひどい天候のサインとして、時々半身を海面から
直立させて持ち上げる動作を、船の近くでしていました。

kdx_8408.JPG
(万が一見て頂けたなら、鳥獣保護区の看板写真を集めていたにこちゃんさんに、写真を捧ぐ)

この後ですが、
まもなく、質の悪い水と壊血症対策のハーブを使いつくしたことで、
船はもう一度病人の船になって行きました。操舵するワクセルも今度
は脚気の症状が現れ始めます。
そして、ここで船は大嵐の海域に入り込むのでした。

歴史に「もしも」はないと言いますが、うまく1週間早く移動できて
いたならば、嵐を避け、彼らは母港に帰還できていたのかもしれません。

さて、今度はいつ書けることやら。
(このネタはわりと大変です。)


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コメント 15

袋田の住職

お墓の写真があると興味を持って見てしまいます・・・
by 袋田の住職 (2008-06-07 20:51) 

かいつぶりん

動物や鳥の名前がいっぱい出てきて読み進めるの大変そうですね。
ステラー海牛までもう少しでしょうか?
by かいつぶりん (2008-06-07 23:31) 

ハギマシコ

ステラーの鳥の話はナイスですね、、、アラスカの海を思いだします。
この記録の季節は?何月でしょうか。
by ハギマシコ (2008-06-07 23:56) 

さとふみ

実際、季節的にいつのことなのでしょうか。
今、現時点ではアリューシャン列島付近も珍しく穏やかなようです。
by さとふみ (2008-06-08 07:09) 

春分

季節のご質問がございましたので、書きます。
最初にちょっとだけ書いたのですが9月です。台風のころですかね。
北上を始めたのが8月23日、8月29日にはシュマギン諸島域に達し、
9月6日にそこを離れています。
by 春分 (2008-06-08 08:39) 

ぱふ

思えば、各民族というか部族というか、よその人間どうしが
互いを認識してコミュニケートするようになってから
そんなに日がたってないんですよねー。
by ぱふ (2008-06-08 10:59) 

RAKI

もじゃもじゃの人を見て、島民は驚いたでしょうねー。
私だって驚きますよ。
てか、退きます。
毛深い人苦手・・・お手入れしてね。
by RAKI (2008-06-08 19:26) 

po-net

あの辺りの大嵐といったらものすごそうですし、そうですかぁ
母港には帰れなかったのですねぇ。。
そういえばクルーズ中ものすごくたくさんのパフィンを見ましたけど
なんとなく絵になる鳥なので、お土産にもパフィンものがたくさん
ありました。あぁ~アラスカクルーズ行きたくなったなぁ。。
by po-net (2008-06-08 19:37) 

mimimomo

こんばんは^^
何事も初めての経験者は大変ですね~
身振り手振りだってなかなか意思の疎通は図れないから・・・
by mimimomo (2008-06-08 19:39) 

びっけ

毎回、ステラーのこの記事には感嘆いたします。
原住民とのコミュニケーション・・・やはり、プレゼントというのが手っ取り早い方法なのでしょうね。
でも、相手にとって価値を感じないものだと、難しいのか・・・。
絹や鏡なんて、気を引きそうだと思うんですけどね。
by びっけ (2008-06-08 22:55) 

ハギマシコ

9月中でもあの海域の鳥達は子育てを終わって豊かな海に
沢山居るんですね、、、。
冬になったら、、、南下して居るのが航路で見れるんですね。
by ハギマシコ (2008-06-09 01:08) 

びっけ

追記コメントです。(^^;
函館の写真・・・1枚目はカーテン越しに映る鳩?のシルエット、3枚目はカラス?4枚目は「鳥獣」という文字・・・皆、鳥に関係ある・・・ということは2枚目の写真に写っている人は鳥山さんとか?
by びっけ (2008-06-09 10:49) 

春分

こちらはまた明日にでもコメントの返事を書きます。
でも、一つだけ。
びっけさん、この写真は五稜郭タワーなんです。下を見下ろしていますね。
私は下から望遠で撮りました。
まあタイトルをつけるなら「鳥瞰」と言ったところでしょうか。
by 春分 (2008-06-09 20:51) 

びっけ

「鳥瞰」・・・うまい! 座布団送ります!(笑)
by びっけ (2008-06-09 22:13) 

春分

袋田の住職さま、
> お墓の写真があると興味を持って見てしまいます・・・
まさか値踏みをしているわけではないと思いますが。
函館には有名な郵便配達人の真っ赤なお墓とか、
有名な野球選手のまん丸のお墓とかがあります。
外人墓地もございますし、お墓見物で十分楽しめるはずです。


かいつぶりんさん、
> 動物や鳥の名前がいっぱい出てきて読み進めるの大変そうですね。
動物の名前と海と船関係の単語がわりと多くて、それと中学生英語に
ない凝った単語も出てきますし、きついです。

ハギマシコさん、
> ステラーの鳥の話はナイスですね、、、アラスカの海を思いだします。
私もアラスカの海が見たくなりました。
なお、ベーリング島のツアーもあるようです。

さとふみさん、
> 今、現時点ではアリューシャン列島付近も珍しく穏やかなようです。
今のように気象情報が手に入るなら、たくさんの死人を出さずにすんだでしょうね。

ぱふさん、
> 思えば、各民族というか部族というか、よその人間どうしが
> 互いを認識してコミュニケートするようになってから
> そんなに日がたってないんですよねー。
もっと昔は会話に困らなかったのですが、天まで届く塔など建てようとしたばっかりに
神の怒りを買い、互いに言葉が通じなくなりました。悲しいことです。
そして今、塔の址には三つのしもべと共に少年が住んでいます。

RAKIさん、
> もじゃもじゃの人を見て、島民は驚いたでしょうねー。
たぶんそうかと思います。
この記述を見ると、アリュートはイヌイットに近いということですね。
ちなみに私は眉毛は濃いです。手入れした方がいいですかね。

po-netさん、
> 母港には帰れなかったのですねぇ。。
あ、ネタバレかな。でも、知ってますよね。
> そういえばクルーズ中ものすごくたくさんのパフィンを見ましたけど
白のぱ~んだをどれでも 全部ならべて♪ ああ、それはパフィーだな。
アラスカは行きたいですね。で、アビが見たいです。

mimimomoさん、
> 身振り手振りだってなかなか意思の疎通は図れないから・・・
単語を一つ二つ理解できればずいぶん違いますでしょうにね。
ビア ビッテ  ダンケ だけでドイツは渡れますしね(渡れないか)。

びっけさん、
> 絹や鏡なんて、気を引きそうだと思うんですけどね。
確かによその地方ではガラス玉だけでいろいろお宝を巻上げてますよね。

ハギマシコさん、
> 9月中でもあの海域の鳥達は子育てを終わって豊かな海に
> 沢山居るんですね、、、。
そのような目でいろいろ考えるといいわけですね。
ステラーの目線に近いですね。

びっけさん、
> 函館の写真・・(中略)・・・皆、鳥に関係ある・・・
> ということは2枚目の写真に写っている人は鳥山さんとか?
そうでないとは言い切れません。
このコメントのおかげでこれが五稜郭タワーの写真であることを書けました。

びっけさん、
> 「鳥瞰」・・・うまい! 座布団送ります!(笑)
お待ちしてます。



本当は待ってませんからご安心を。

by 春分 (2008-06-10 22:14) 

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