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ステラーの航海(「神のご意志により」) [海牛]

18世紀、はじめてアラスカへの航海をした聖ピョートル号と、
その船に乗り込んだドイツ人博物学者ステラーのその後ですが
「そこに海果てるところ(Where the Sea Breaks Its Back)」を
読み進んでおりましたら、実は終わりまで読み終えてしまいました。
ここに書いた内容はまだ道半ばなのですが。

とは言え、少しとばしながらになりますが、続きをご紹介して行きます

また、興味のない人もありましょうから、「載せ残しあやしい写真」を
散りばめます。そっちも興味を持ってもらえないと困りますけども。

画像-0015.jpg

さて、帰路についた聖ピョートル号ですが、すでにとき遅く風は悪く、
指導者ベーリングもますます弱り、立ち上がることも目を開けることも
ままならない中で、進みます。せっかくの給水と病人の治療の機会も
生かしきれず、この後、もっとも凄惨な3ヵ月を書かねばなりません。
ちなみに原住民と遭遇した島を後にしたのがすでに9月でした。

前回述べた通り、水の補給がいい加減(黒い溜まり水を汲んだ)で、
質の悪い水はすぐに船をもう一度病人の船にして行きました。
操舵するワクセルも今度は脚気の症状が現れ始めます。
ビタミン不足は、私たちはだるいという印象でしょうけれど、進めば
全身に及ぶ耐え難い痛みを伴うそうで、その中でも仕事をしなければ
ならないことはつらいことだと思われます。誰かが操舵し、誰かが帆
をあやつらなければ船は進みようがないのですから。
それでも航海記録を見る限り、最初は西へ、故郷へと進んでいました。

kdx_9999_77.JPG

しかし、空は不気味にその様相を変え、ままならぬ風が吹き、そして
9月30日には、これまで誰も経験したことのない嵐に見舞われます。

航路の記録によれば、船はこの後16日間、嵐の中を進むでなく戻る
でなく、ただ海を彷徨いました。風は咆哮し、船はきしみ、ワクセル
は舵にしがみつくばかり、船員の半分はそもそもが病人であり、後の
半分も恐怖に震えるくらいしかやりようもありません。
ステラーもたって歩くのもやっとで、提督の部屋に戻ってみると、
大きな揺れで、寝ていたベーリング提督が上にふってきて、目を見開
き動かないようなありさまで、この時は、ステラーも提督の死を疑わ
なかったようです。実際には、この時は生き延びるのですが。

kdx_9528.JPG

やっと嵐から抜けたときには、陸をみつけても給水に向かうことさえ
できないような有様でした。ボートを下ろすようキトロフが命じても、
水夫は動きませんでした。

そして、この章のタイトルは「神のご意志により」です。
どのような意思か、察しのいい方はおわかりでしょう。
以下のような場面のことばです。

"By the will of God Alexei Kiselev died of scurvy."
"Nikita Khanitonov died by the will of God."
"By the will of God died the Yakutsk soldier Karp Pashennoi,
 and welowerd him into the sea."
「神のご意志により、アレクセイ・キセリョフは壊血病で亡くなりました。」
「ニキータ・カニトノフは神のご意志により亡くなりました。」
「神のご意志により、ヤクーツクの兵士カルプ・パセイノイは亡くなり、
 私たちは海へ彼を葬りました。」
(112ページからそのまま引用。改行と訳は私の独断によります。)

弔いは続き、生きている者も働ける者はこの後も日に日に減りました。

画像-0004.jpg

後の章の記載ですが、77人の乗組員のうち31人は生きて故郷に戻ること
はありませんでした。

時はすでに11月。ワクセルはどこかで越冬せざるを得ないと考え、提督に
提案しましたが、ベーリングは今一度の努力を求めます。ベーリングはもう
長く生きられないと思っていましたが、自分が葬られる場所が故郷ではなく
名も知らぬ島であることを恐れたのでした。

kdx_9974.JPG

そんなある日、船は歓喜の声にあふれました。
目の前に母港のあるアバチャ湾の光景が広がったのです。
すべての乗組員は神の慈悲に心より感謝し、航海術を誇りました。

ですが、しばらくして、
それがアバチャ湾とは少し違うことがわかって来ました。
特徴的な火山の姿、重なり合う島の姿がありませんでした。
それでも、それは故郷によく似ていたのか、キトロフらはアバチャ湾では
ないにしてもそれがカムチャツカのどこかであることを疑いませんでした。
懐疑的なステラーに対し、「お前は船乗りではないだろう」と言い、聞く
ことをしませんでした。

ベーリングは、そこがカムチャツカ半島であったにしても、もうしばらく
航海し、母港まで帰り着くようワクセルに指示しましたが、ワクセルも
これ以上の航海ができるとは考える余裕はなかったようです。

kdx_9609.JPG

ベーリングの部屋に、残された乗組員が集められ、討議がなされました。
士官であるキトロフとワクセルはここをカムチャツカと考え、ここでの
越冬、あるいは陸路での帰還を指示し、ベーリングの同意を求めました。
しかし、目を開くのも苦痛であったにもかかわらず、起きて説いたのは
今一度の努力であり、母港への聖ピョートル号での航海でした。
キトロフはそれに反対しました。ここはカムチャツカであると。
ベーリングはベーリングの世話をしていたオブシン(Ovtsin)に
意見を求めました。ドミトリー・オブシンはそもそも士官でしたが、
政治的な背景からそれを剥奪されていた元士官でした。
オブシンは「女王陛下の命を受けての航海である」と、ベーリングに
賛成し、帰還を求めましたが、キトロフは話にわって入り、「ここは
カムチャツカであり、万が一違うなら、私の首を切って落とせ」とまで
言い。議論を支配しました。
投票がなされ、キトロフとワクセルの意見が通り、船は雪の積もる帆に
風を受け、湾内へと静かに進みました。
そして、この聖ピョートル号は二度とここから旅立つことはありません
でした。

この章と、その後の3つの章を示します。
ステラーの旅は、その後も2つの章を残しています。

6章 "By the Will of God" (「神のご意志により」)
7章 Bering Island    (ベーリング島)
8章 The Long Winter   (長い冬)
9章 Steller's Sea Cow    (ステラー海牛)


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コメント 29

po-net

ステラーたち、いよいよ陸地に戻るのですね。そしてステラー海牛は。。
続きがまたまた楽しみです。挿入写真がまた良かったです。
麦の穂に葱坊主、草むらのキジとか、気持ちが和みますね~
by po-net (2008-07-05 13:44) 

mimimomo

こんにちは^^
昔の航海は大変だったのですね~ 読むたびその感が強くなります。
船自体もたいしたものではないでしょうしね~
実際船をカムチャッカ《と思いたい》の湾の一つに入れそこから旅立たなかった
と言うことはその後彼らはどうなったのか興味津々・・・

一枚目のお写真は何でしょ?
雉のお写真が一番好き^^
by mimimomo (2008-07-05 15:58) 

mitu

こんにちは。
命がけの航海、手に汗握りますね。
カムチャッカかわからない大地。
どうなるのか続きが知りたいです。
雉のお写真いいですね。



by mitu (2008-07-05 16:16) 

MORIHANA

麦秋…ですか。今年もあと、もう半分ですね。
ひょっこり顔を覗かせているキジと葱坊主が可愛い♪

by MORIHANA (2008-07-05 16:30) 

せつこ

ふーーーん  昔の航海は死を覚悟して乗船したのかしら・・・。
あら、ネギボウズ、おもしろ~~い!
by せつこ (2008-07-05 17:06) 

としぽ

こんばんは。昔の航海は寒い地域では命がけですね。
続きが楽しみですね。最近読書をしなくなってしまいました。
by としぽ (2008-07-05 18:21) 

めもてる

大航海時代の船乗りは命がけですね、次回のUPを楽しみにお待ちしています。
by めもてる (2008-07-05 18:47) 

トントコプリン

1枚目、何の影でしょうか。
自転車でもなさそうだし…。
by トントコプリン (2008-07-05 18:48) 

SilverMac

昔の探検家の大敵は壊血病でしたね。決死の航海、スゴイ勇気です。
by SilverMac (2008-07-05 18:59) 

絵瑠

こんばんは。
ネギ坊主の行列が可愛いらしいですね。
見過ごしがちなものもセンスの良い方が撮られるとnice!です^^
by 絵瑠 (2008-07-05 20:13) 

きまじめさん

「神のご意志により」は嵐の中、どうにか人々が生かされた事かと思いましたら、
故郷の土を踏むこと亡くなってしまった人々、それが神のご意志だったのですね。
昔の航海の壮絶さが想像できます。
いよいよ大詰めですね。 ステラー海牛の登場、ワクワクします。
麦の穂でしょうか。美しい写真ですね。
by きまじめさん (2008-07-05 21:31) 

はてみ

1枚目は宇宙人だと思ったけれども。
よくわかっていなかったのでベーリング島の位置を確認しました。
日本に近いといえば近いですね!
by はてみ (2008-07-05 21:34) 

ぱふ

すっかり春分さんの術中にはまり、ワクワクどきどきしながら
冒険談の続きを待っております。
雉くんも葱坊主も---どれも味と物語のありそうなお写真ですね~ 

by ぱふ (2008-07-05 21:36) 

lapis

「載せ残しあやしい写真」、とっても素敵です!
第9章で、ようやくステラー海牛の登場ですね。
さて、どうなることやら、、、。
楽しみにしております。
by lapis (2008-07-05 22:48) 

ハギマシコ

ステラーの冒険?がはじまるのかなあ・・・・・楽しみですね
雉君は繁殖できたのかしら?、、、雛は母親一人でそだてるようですし、雛連れ、、、何処かに居そうですね。
by ハギマシコ (2008-07-05 23:01) 

かいつぶりん

船旅を終え、ステラーはどんな旅に出るのでしょう?
ステラー海牛と共に、楽しみですね。
by かいつぶりん (2008-07-05 23:09) 

berry

本当に命懸けの航海・・・ハラハラドキドキです。
続きが楽しみです~。
普通にお散歩でもしてるかのようなキジ君に和みます(^^)
by berry (2008-07-05 23:45) 

HEIJI

不思議な世界に感じます。事実に基づいた記録なんでしょうけど、そんなふうに感じてしまいます。
ステラー海牛も登場間近ですね?
写真がなんとなく雰囲気良いです。
by HEIJI (2008-07-05 23:51) 

mami

こんにちは~♪  \(^ ^)/
こちらで知ったステラー海牛は忘れられない動物です。
キジ君、安心しきっている様子ですね~♪
お越しいただきnice!を、ありがとうございました。(_ _)
by mami (2008-07-06 17:36) 

キタノオドリコ

さて、私の読書(『菜の花の沖』)も漸う佳境に入ってきましたが、レザノフとクルーゼンシュテルンの関係、どこかベーリングとステラーのそれを彷彿させるなぁなどと思っていたところです。
by キタノオドリコ (2008-07-06 17:47) 

みかん

デスラー総統?
by みかん (2008-07-06 19:29) 

びっけ

だんだん悲壮になってきましたね。(;_;)
1枚目の写真が、ウルトラセブンに出てくる妖しい宇宙人のようなテイストで好きです!(笑)
by びっけ (2008-07-06 23:30) 

RAKI

壮絶ですね。そして合間の画像がのほほんですね。
なんつーギャップでしょうか。
by RAKI (2008-07-07 20:45) 

momoe

苛酷であった事でしょうね。
「神のご意志により」という言の重みを感じます。
by momoe (2008-07-08 18:32) 

こう

昔の航海はみんなこんなものだったのでしょうか?
それでも海に出て行くのは、それだけ魅力があったんでしょうね。
by こう (2008-07-08 22:41) 

sakamono

いよいよクライマックスの様相を呈してきた感がありますね。
ネギ坊主の写真が、なんだか良いです^^。
by sakamono (2008-07-09 08:19) 

春分

ステラーのコメントにも返事を書きます。

po-netさん、
> 続きがまたまた楽しみです。挿入写真がまた良かったです。
関連性も脈絡もないんですけどもね。

mimimomoさん、
> 実際船をカムチャッカ《と思いたい》の湾の一つに入れそこから
> 旅立たなかったと言うことはその後彼らはどうなったのか興味津々・・・
うーん、伏線は張ってあるんですけども。
次の旅立ちの際にわかると思います。
> 一枚目のお写真は何でしょ?
アスファルトの上の影です。木の影なんですよ。

mituさん、
> カムチャッカかわからない大地。
どこかは、すぐわかる予定ですが、まあ。

MORIHANAさん、
> 麦秋…ですか。今年もあと、もう半分ですね。
> ひょっこり顔を覗かせているキジと葱坊主が可愛い♪
季節の変化を追っていると、一年はあっという間です。
少しうれしいような。

せつこさん、
> あら、ネギボウズ、おもしろ~~い!
並び方がリズミカルでしょう。

としぽさん、
> 続きが楽しみですね。最近読書をしなくなってしまいました。
私も読書量は減りました。なかなか意欲がわかなくて。

めもてるさん、
> 大航海時代の船乗りは命がけですね、次回のUPを楽しみにお待ちしています。
はい。できるだけ早めにを心がけます。

トントコプリンさん、
> 1枚目、何の影でしょうか。
> 自転車でもなさそうだし…。
木の影です。神社のイチョウか街路のプラタナスです。冬の写真ですね。

SilverMacさん、
> 昔の探検家の大敵は壊血病でしたね。決死の航海、スゴイ勇気です。
勇気って言うか、甘い考えで出かけて行くのでしょうね。
でもそんなのがないと新しい世界にはいけません。

絵瑠さん、
> ネギ坊主の行列が可愛いらしいですね。
リズミカルに並んでますでしょう。

きまじめさん、
> いよいよ大詰めですね。 ステラー海牛の登場、ワクワクします。
まだ、少し長いのです。

はてみさん、
> 1枚目は宇宙人だと思ったけれども。
ケムール人に似てるかなと。
> よくわかっていなかったのでベーリング島の位置を確認しました。
> 日本に近いといえば近いですね!
後々話を出しましょうかね。キスカ島やアッツ島の側も通ってます。

ぱふさん、
> すっかり春分さんの術中にはまり、ワクワクどきどきしながら
> 冒険談の続きを待っております。
そいつはよかったです。
> 雉くんも葱坊主も---どれも味と物語のありそうなお写真ですね~ 
出し惜しみすればよかったですかね。

lapisさん、
> 「載せ残しあやしい写真」、とっても素敵です!
そう言って頂けるとうれしいですね。

ハギマシコさん、
> ステラーの冒険?がはじまるのかなあ・・・・・楽しみですね
どうでしょうね。
> 雉君は繁殖できたのかしら?~
たぶん。
なおもう一種今年も繁殖しているやつがおります。

かいつぶりんさん、
> 船旅を終え、ステラーはどんな旅に出るのでしょう?
実は越冬が待ってたりして。

berryさん、
> 普通にお散歩でもしてるかのようなキジ君に和みます(^^)
このキジは新顔かもしれません。麦畑だけで3羽のオスがいます。

HEIJIさん、
> 不思議な世界に感じます。事実に基づいた記録なんでしょうけど、
> そんなふうに感じてしまいます。
さすがに250年も前ですからねー。江戸時代ですから。

mamiさん、
> こちらで知ったステラー海牛は忘れられない動物です。
今少しで出しますから、忘れないで下さいね。

キタノオドリコさん、
> さて、私の読書(『菜の花の沖』)も漸う佳境に入ってきましたが、
> レザノフとクルーゼンシュテルンの関係、どこかベーリングとステラー
> のそれを彷彿させるなぁなどと思っていたところです。
おー、名作でしょー。なるほど、佳境ですね。

みかんさん、
> デスラー総統?
いえ、違います。
でも、ちょっと面白いかな。

びっけさん、
> 1枚目の写真が、ウルトラセブンに出てくる妖しい宇宙人のような
> テイストで好きです!(笑)
私はケムール人の印象かと思いましたが、セブンもこんな夜が似合いますね。

RAKIさん、
> 壮絶ですね。そして合間の画像がのほほんですね。
いいでしょ。
でも、誰も首のところで切られている3人組には言及がないですね。

momoeさん、
> 「神のご意志により」という言の重みを感じます。
この時代は神の意味がずいぶん重いでしょうからね。

こうさん、
> 昔の航海はみんなこんなものだったのでしょうか?
そんなんことはなかったと思うんですが。
> それでも海に出て行くのは、それだけ魅力があったんでしょうね。
そこそこ儲かったとは思います。

sakamonoさん、
> いよいよクライマックスの様相を呈してきた感がありますね。
> ネギ坊主の写真が、なんだか良いです^^。
ネギは評判がよかったですね。

by 春分 (2008-07-10 11:54) 

バーバリー コート 2012

突然訪問します失礼しました。あなたのブログはとてもすばらしいです、本当に感心しました!
by バーバリー コート 2012 (2013-01-17 02:27) 

春分

ショップの案内のために記事に関係ないコメントをつける行為はいいことと思っていません。記事内容に触れない褒め言葉はそのようなコメントのように思います。弁明が無ければ、コメントを拒否します。
by 春分 (2013-01-17 17:20) 

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