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「荒野へ」 [雑本]

年末だったか、早く仕事が終わった出張の帰りに、空港で文庫本を買いました。
この本は、そのころ映画化され公開されたということで、目につく場所にあり、
その
ことが、とりあえず手に取った理由だったと思います。
映画は、あまり話題になった様子もないのですが、
本のタイトルは「荒野へ」です (映画のタイトルは「Into the Wild」)。


話は、下記のような文から始まります。

作者ノート
1992年の四月、東海岸の裕福な家庭に育ったひとりの若者が、
ヒッチハイクでアラスカまでやってきて、マッキンレー山の北の
荒野に単身徒歩で分け入って行った。四か月後、彼の腐乱死体が
ヘラジカを追っていたハンターの一団に発見された。
遺体が発見されて間もなく、私は「アウトサイド」誌の編集長から、
謎めいた若者の死の周辺について記事を書くよう依頼された。
若者はクリストファー・ジョンソン・マッカンドレスという名前である
ことがわかった。聞くところによれば、ワシントンDC郊外の高級
住宅地で育ち、学業の方も優秀であり、スポーツマンとしても
エリートだったようである。
1990年の夏にエモリー大学を優等で卒業し、その直後に姿を
消したのだった。


この話、日本で特に話題になったと言う記憶はないです。
でも「全米ベストセラー・ノンフィクション」とありました。
私もたいした話とは思いませんでしたが、2ヶ月以上たっても忘れ
ることなく、少しこの本のことが書いておきたいと思いました。

ただし、このクリス・マッカンドレスの推察される死因も含め、
書評・感想文というのは、ネタばらししないように注意が必要でしょう。
ですから、映画の予告編のような不十分な話ですが、ご容赦下さい。

 いつもなら、興味のない方のために関係ない写真を載せるところですが、
 あまりふさわしい写真もなかったので、今回は載せません。
 もし、他国の見知らぬ若者の死に興味がなく、自然観察や写真だけ見たい
 方で、カエルの卵とカワセミを載せた前記事をご覧になっていなければ、
 そっちをご覧下さい。

 

作者のジョン・クラカワーは先の出だしのように、たまたまこの事件を
担当したアウトドア誌のライターでした。ただ、生い立ちなどを背景に、
深くマッカンドレスに共感を抱いていました。
大学卒業後に姿を消したマッカンドレスは、それまでに自分で稼いで
得た車や持ち物を捨て、2万4千ドルを慈善団体に寄付して、米国を
放浪する旅に身を置きました。名前も捨て、アレクサンダーと名って。

文学を愛し、人との交流は一般的な価値観からすればあまり上手に
やっていたとは言えないかもしれないですが、たまたま出会った人に
特別な印象を与えたようでした。
例えば、放浪の中で、一番長く一緒に居たフランツは81歳の男で、
24歳の若者であったマッカンドレスの言葉を元にアパートを引き払い
砂地でのキャンプ暮らしを始めていました。彼を待ちながら。
彼は、魅力ある人物でした。

いくつかの手紙にマッカンドレスの心は記録されていました。例えば、

やあ!
これが僕からの最後の便りになるだろう。
荒野で暮らすために、今から徒歩で出発します。
身体に気をつけて下さい。知り合いになれて本当によかった
と思っている。
アレクサンダー

わかりませんが、いいやつっぽいです。

そして、アラスカでの最後の16週間も自分に課した「大地の与える物だけ
で暮らす」ことの困難さに苦労はしたものの、きちんと選択された図鑑や本
を手に、うまくやり遂げていました。
ただ、結局死ぬこととなり、この本の著者により、知らしめられました。

マッカンドレスは、最後に暮らした廃棄された小さなバスの中で(これは
すぐわかることですから、書きますが)、飢え死にしました。

何はともあれ、
「クリス・マッカンドレスの人生と死の物語には、思いがけないほど多くの人が
感動してくれた」らしく「雑誌は創刊号以来最も多くの手紙が寄せられた。」
らしいです。
もちろん、それは賛否両論があって、共感できる高い理想を賞賛する声ととも
に「変わり者、愚か者であり、マスコミが賞賛するようなことではないだろう」と
非難も多かったようです。それについては、特に最初のアウトサイド誌の記事
で、マッカンドレスがヘラジカを仕留めたと書き残しているのに、彼の死体を見
つけた熟練したハンターらがそれが大きなカリブーであったと言っていたことが
火に油を注いだようでした。ヘラジカとカリブー間違えるようなやつはアラスカ
で暮らす資格はないと総スカンを食らったらしいのです。ですが、間違ったのは
ハンターの方で、マッカンドレスにミスはありませんでした。
また自殺志願者、自殺行為志願者への避難もありましたが、少なくとも作者は
そう思っていません。

家庭に問題はありましたが、両親は彼を愛していましたし、兄弟達もまた、
彼を愛していました。

 

両親は、彼の最後の場所を訪ねています。

ウォルトとビリーはバスから十ヤードのところに立って、
黙りこくったまま奇妙な車をじっと見つめている。近くの
ポプラの木には3羽のカケスがいて、けたたましい鳴き声
をあげている。
「思ったよりも小さいわね」ビリーがやっと口を開いた。
そして周囲を見回した。
「ほんとうにすばらしい場所だわ。信じられないくらい私が
 育った場所に似ている。ねえ、ウォルト、アッパー半島に
 そっくりでしょう。クリスはここが気に入ったに違いないわ」
「アラスカは嫌いだね、理由は山ほどあるよ、わかるかい」
「だが、私も同じことを思っていたんだ-確かにここは美しい。
 クリスが魅せられたのも無理はない」


クリス・マッカンドレスは、失敗者かもしれません。
確かに短くしか生きていません。

私は、惹かれます。

もし、興味が持てたらこの本を読んで下さい。
 

映画は、見てませんので、もし見た方はネタばらしにならないよう
どんなものだったか、お教え頂けるとありがたいです。

荒野へ (集英社文庫)

荒野へ (集英社文庫)

  • 作者: ジョン クラカワー
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 文庫
イントゥ・ザ・ワイルド [DVD]

イントゥ・ザ・ワイルド [DVD]

  • 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
  • メディア: DVD

たぶんクリス・マッカンドレスのバスの辺


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コメント 21

marilyn

こんにちは! 本のことは知りませんでしたけれど、この映画の
ことは、知っていたような気がします。
他の人から見たらなんで~??って思うことでも、本人にはなぜか
こうしなければいられない・・・っていうのがあるんでしょうね。
by marilyn (2009-03-08 16:46) 

キタノオドリコ

人の中には時に先祖がえりしたごとくグレートジャーニーに惹かれる遺伝子があるのでしょうか?私、そっちの血は薄いように思われますが、興味深いお話なので機会があれば読んでみたいと思います。
by キタノオドリコ (2009-03-08 17:10) 

pace

私の周りではちょっと話題に成りました
by pace (2009-03-08 17:47) 

mimimomo

こんばんは^^
分かるようで分かりません~
若いときだったら、もの凄く共感したかも、いや、したに違いありません。
今のわたくしには・・・親の気持ちの方が、、、優先されるようです。
by mimimomo (2009-03-08 19:14) 

chichiの母

映画はわかりませんが、本は学校の図書室に
あります。先生からのリクエストで購入されたと思います。
なるほど面白そうです。面白いというよりももっと深いものを
感じますので読んでみます。
コメントありがとうございました。
一度良くなったのですが再び具合が悪くなりちょっと
周りもバタバタしていました。
春らしくなるにつれ、回復して行くと勝手に信じていますので
又、こちらへお伺いしますね。
by chichiの母 (2009-03-08 19:20) 

Baldhead1010

召される時が自分の寿命です。
by Baldhead1010 (2009-03-08 20:20) 

タックン

ひとりの若者の死に思いを馳せた物語なのですね。
何のメッセージが残されていたのでしょう。
「読みたい本」のリストに 入れさせてくださいね。

by タックン (2009-03-08 20:54) 

aya

映画を見てみたいです。 テーマは私にも反映しそうな感じ(>_<)
by aya (2009-03-08 21:29) 

yakko

出来たら映画を観てみたいです。
by yakko (2009-03-08 21:44) 

チヨロギ

このストーリー、どこかで見たような気がすると思ったら、
「イントゥ・ザ・ワイルド」だったんですね。
朝日新聞に掲載された沢木耕太郎の映画レビューを読んで、
観てみたいなぁと思ったのをよく憶えています。
結局、観そびれてしまったのですが・・・( ̄ー ̄;
原作が文庫で出ているのを知りませんでした。
ぜひ読んでみたいです。ご紹介ありがとうございました。
by チヨロギ (2009-03-08 23:31) 

お茶屋

ぜひ拝見してみようかと・・・☆
by お茶屋 (2009-03-09 00:31) 

bluebird

読みました、アラスカって惹かれるんですよね・・何故か。
骨格に詳しい方が「あなたはイヌイットに近い顔の骨格」って・・・
そのせいです、多分。

星野道夫さんの著書も(多分)全部読んでいます。

この映画、観たかったんです。
たしか、ショーン・ペンが監督かプロデュースでしたよね?
もうDVDになったいたんですね!

by bluebird (2009-03-09 00:37) 

とり

こういう世界に憧れあります。
by とり (2009-03-09 07:31) 

michan*

私も見てみようと思います^^
by michan* (2009-03-09 19:30) 

HEIJI

荒野へ向かった彼には共感してしまいそうな気がします。
たぶんしてしまうでしょうね。
何が彼をそこまで引きつけたのか、気になります。
by HEIJI (2009-03-09 21:37) 

アッキー

マッキンリー。。。。植村さんの行方不明が思い出されます
そして「遊歩大全」って言うアウトドアの本が激しく思い出しました
by アッキー (2009-03-10 00:05) 

春分

ともかくnice!だけつけてくれた皆さんにまずはありがとうございます。
マイナーなネタに「読んだよ」というメッセージだけでもありがたい。

marilynさん、
> 他の人から見たらなんで~??って思うことでも、本人にはなぜか
> こうしなければいられない・・・っていうのがあるんでしょうね。
そんなふうにしてしまう人がいますね。そして、そんな人が私は好きです。

キタノオドリコさん、
> ~興味深いお話なので機会があれば読んでみたいと思います。
まあ、無理はなさらずに。でも、書店で見てしまったら、それは運命です。
その時は買ってしまいましょう。

paceさん、
> 私の周りではちょっと話題に成りました
ちょっと、感動しました。
これが話題になる仲間をお持ちのpaceさんて、さすがだなと。

mimimomoさん、
> 若いときだったら、もの凄く共感したかも、いや、したに違いありません。
> 今のわたくしには・・・親の気持ちの方が、、、優先されるようです。
私もどこかそんな思いがあるので、両親の様子を載せてしまったのかと思います。
親ならば、こんな思いはしたくないでしょう。しかし、名前を出しているので、
この作者の意志に共感し、息子の死を語ることを肯定したのでしょう。
その思いを、深く感じ入る次第です。

chichiの母さん、
> 映画はわかりませんが、本は学校の図書室に
> あります。先生からのリクエストで購入されたと思います。
どうも、理解ある先生がいらっしゃるようですね。
> コメントありがとうございました。
いえ。礼を言われるほどのことは書けてません。すみません。

Baldhead1010さん、
> 召される時が自分の寿命です。
何度か反芻しました。
そうですね。短くても長くても、生きたことでなしたことがありますでしょう。

タックンさん、
> 「読みたい本」のリストに 入れさせてくださいね。
書評を書きたいと思ったのは、タックンさんの記事のおかげです。
「悼む人」に影響されて書くには、ふさわしい内容でしょうか。

ayaさん、
> 映画を見てみたいです。 テーマは私にも反映しそうな感じ(>_<)
こんなふうに書きながら、私もDVDを買おうかと思い始めています。

yakkoさん、
> 出来たら映画を観てみたいです。
いつかテレビでやるといいですね。私はDVDを買おうかなと思います。


チヨロギさん、
> 朝日新聞に掲載された沢木耕太郎の映画レビューを読んで、
> 観てみたいなぁと思ったのをよく憶えています。
朝日新聞を読んでいるはずですが、ブログにかまけていて記憶にないです。
> ぜひ読んでみたいです。ご紹介ありがとうございました。
少し役にたてたなら、うれしいですが。

お茶屋さん、
> ぜひ拝見してみようかと・・・☆
もしお近くのレンタル屋さんにあるようでしたら、手に取って見て下さい。

bluebirdさん、
> 骨格に詳しい方が「あなたはイヌイットに近い顔の骨格」って・・・
そんな、カミングアウトを。
> 星野道夫さんの著書も(多分)全部読んでいます。
それはすごいです。自慢できますね。私も先日のNHKの番組を見て
写真集だけでもそろえちゃおうかと思いました。
> この映画、観たかったんです。
見てみて下さい。

とりさん、
> こういう世界に憧れあります。
ここに来る方の何人かは、わかるくちのようですね。
分かり合えるのはいいことでしょう。

michan*さん、
> 私も見てみようと思います^^
あまり引きこまれないようになさって下さい。家族もあることですし。

HEIJI さん、
> 荒野へ向かった彼には共感してしまいそうな気がします。
> たぶんしてしまうでしょうね。
> 何が彼をそこまで引きつけたのか、気になります。
解釈は、読者任せのところがありますが、その分だけ考えさせられます。
死因のところは作者の説得力が光ります。ここはポイントです。

アッキーさん、
> マッキンリー。。。。植村さんの行方不明が思い出されます
そうですね。アラスカはいろんな人が引きつけられた場所ですね。
> そして「遊歩大全」って言うアウトドアの本が激しく思い出しました
いろんなことをされてますね。

by 春分 (2009-03-10 22:04) 

mwainfo

ノンフィクション「荒野へ」読みました。作者は、マッカンドレスの人生と自分の人生がどことなく似ていることが、とりわけ気になったといい、一年もかけて、彼の足跡をたどり直したといいます。マッキンレーの荒野の魅力、人との絆等かなり深いものがありますね。
by mwainfo (2009-03-10 23:58) 

lingnam

映画はなんとなく知っていましたが、
本のことはこちらの記事ではじめて知りました。
アラスカというと写真家の星野さん、そして植村さんが
思い出されます。
彼のような生き方もアリだと思います。
読んでみますね。
by lingnam (2009-03-11 22:55) 

かいつぶりん

本も映画も知りませんでした。
過酷なアラスカの大地に単身乗り込む・・・
自分では想像もできませんが、どんな想いがあったのか、興味深い内容ですね。
by かいつぶりん (2009-03-13 23:52) 

春分

mwainfoさん、
> ノンフィクション「荒野へ」読みました。
mwainfoさんが読んでられたというのは、そう伺うと納得できる気がしました。
読んだ方がいたのはうれしいことでした。多くの方が興味を持って下さった
こともうれしいことですね。

lingnamさん、
> アラスカというと写真家の星野さん、そして植村さんが
> 思い出されます。
そしてほんの数時間しかいませんでしたが我らがG・W・ステラーもアラスカ
と深い関係のある1人です。いつか行ってみることもできるかなぁ。
株価がこんな様子では年金も期待できず、だめそうですが。

かいつぶりんさん、
> 本も映画も知りませんでした。
ふつうはそうかなと思います。私も知りませんでした。
でも、つい今DVDを注文してしまいました。
by 春分 (2009-03-14 08:41) 

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