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ステラーの航海(アラスカ上陸) [海牛]

聖パブロフ号の話を読んでない方は、そちらから読んで下さい。
「これまでのあらすじ」もありますし。

と言うことで、そっちは読んで頂けたなら、
ベーリングの聖ピョートル号の話も読んで頂ければと思います。

ステラーとベーリングの聖ピョートル号はと言うと、
聖パブロフ号が陸を見つけた7月15日、嵐の夜に、ステラーが遠い山の陰を発見します。
「陸だ!」との叫びは、しかし、公式の航海日誌には書かれていません。
発見者のステラーの日記に書かれており「僕が見つけたのが気に入らないのだ」
ということが書かれているようです。小さな司令官と船員の関係はさらに悪くなっています。
しかし、翌日、誰の目にも明らかな山並みを見ることとなりました。
アラスカ到着です。

聖ピョートル号の到着地点は聖パブロフ号よりもアラスカらしい側です。すなわち、
経線に沿ったカナダ・アメリカ国境の辺りの、その北側(アラスカ側)に到ります。


大きな地図で見る

ただ、陸の発見に対し提督ベーリングは何の感動もなく陸地を一瞥するだけでした。
既に帰還に都合のいい風の季節は終わり、どんな風が吹くかもわからないタイミング
だと、すっかり無気力になっていたようです。「既に遅いのだ」と言うわけです。
(もっとも、本当にそうだったのですが。ベーリングの判断こそ正しかったのですが。)


とは言え、ピョートル号も真水が必要でしたので、水を得ようとします。
とりあえず危険の少なそうな沿岸のカヤック(Kayak)島に向かいます。
そもそもその前に、戦隊長(Fleet Master)キトロフ(Chitrov)とひと悶着あります。
ステラー「水の様子や漂流物からして、この先に大きな川があるからそこへいこう」
(その後、実際にあったその川は「ベーリング川」と名づけられます。)
キトロフ「ほー、ステラーさんは前にもここにいらしたことがあったのですか?」
ベーリングが割って入りますが、ベーリングとしてもやれやれです。

ステラーは探検を希望します。
給水と同時にステラーはこの島の探検を希望しますが、ベーリングは拒絶します。
「危険な原住民がいるかもしれない。一時もお前を離したくないのだ」とか言って
(こっちも危ない感じでいっぱいです)。
ステラーも「私は女のように臆病じゃない!」とか、面と向かって遥かに年上で
提督のベーリングにいいます。


そして結局、
ステラーは勝手に空の給水容器を乗せた船に乗り、振り切って、探検に出かけます。
これまでに書いておけばよかったのですが、ステラーはステラー付のハンターも船に
乗せていました。ベーリングに乞われて乗船する際に交渉して乗せています。
このコサックの青年(Lepekhin、レペクヒン?)は、最初にステラーがソリに乗って
登場する場面でも一緒にいました。唯一の信頼のおける部下あるいは友人です。
ステラーは、このハンターとたった二人で上陸を図ります。
そして、砂利の浜から、木々のない苔に覆われた陸に上がります。
これが西洋人のアラスカへの第一歩になるわけですが。
( ご承知の通り、この話全体のクライマックスはベーリング島での出来事でしょう。
 しかしながら、この探検の意味合いもバカにならないことは明白でしょう。)


ステラーは上陸してすぐに、いくつかの「痕跡」を見つけます。
まずは火を使った焼けた石の跡。そして干し燻された魚、居住跡と思われる乾いた草。
刈ったばかりの草の切り口。それは水を濾すためのもの。
概ねそれらはカムチャツカの原住民のやり方と良く似たものでした。
もちろんステラーだからわかる、と言うかステラーにしかわからないことでしたが。
水を持ち帰るのを減らして、代わりにこれらの証拠の品をステラーは持ち帰りました。

そして、ステラーは、原住民の痕跡を見つけた後に、後に「ステラーの丘」と呼ばれる
ことになる高見に登りました。登りきると、その反対側は絶壁で、その先にははるかに
大陸が、アメリカ大陸が見えていました。


10時間の後、戻ったステラーは何と言い訳すべきかと考えあぐねていましたが、
彼を迎えたのは叱責ではなく、よく温められたホットチョコレートでした。

ただ、船に戻ったステラーはその後一切の上陸を許されませんでした。
持ち帰るべき水を減じ、本来の仕事である地質学的成果を上げず、危険な現地人
の痕跡を訪ねてもっと何かをさせてもらえると考えられるわけもないのですが、
ベーリングは他の理由ですぐにこの地を離れようとしました。
「今はまだいい風が吹くだろう」という航海者のカンです。
ステラーだけではなく、キトロフたちもフルに給水するまで待つように進言しています。
ですが、ベーリングは断固として決断を変えませんでした。
しかし、こう判断したときのベーリングは腫れ始めた足が痛み、粗悪な中国煙草をふかし
という様子だったらしく、その判断は怪しい様子に書かれています。
(そもそも「粗悪な中国煙草」って、含みを感じる単語なんですけどもね。)

ところで、聖ピョートル号も、ナイフやケトルを現地人のために残してこの地を離れました。
煙草もこのプレゼントに含まれましたが、ステラーは苦言を呈しています。
「ここの現地人は煙草を知らないはずだ、とすれば食べ物と思い食べるが、毒になる」と。
そして、その話には後日談があります。
ベーリングが去って半世紀が過ぎた頃、この地を訪ねると、現地の古老が語ったそうです。
「私が少年の頃、大きな船がやってきて、上陸して来た。
 人々は恐れ、すべて隠れてしまったが、船が去った後戻ってみると、ナイフやケトルや
 葉っぱがあった。ナイフやケトルは喜ばれたが、葉っぱを食べたときはだめだった。」と。
(この話も面白いでしょう。)
(と言うか、ステラーの見識は抜きん出ていたわけです。性格が伴ったらなと、誰もが思うわけです。)

なお、ステラーのハンターはアラスカのこの島で、唯一、ステラーカケスを撃ち落とし、
持ち帰っています。
ステラーの名を冠した鳥や動物は、他に「ステラーのシーライオン」すなわちトドと、
「ステラーのシーイーグル」すなわちオオワシがいます。そして、その他には、
後にそこで命を落とす提督の名を冠した無人島「ベーリング島」で発見され、滅びた、
「ステラーのメガネウ」と「ステラーの大海牛(ダイカイギュウ)」があるわけです。
そしてその他に、もう一つ。
それはまた後の話。

Where the Sea Breaks Its Back: The Epic Story of Early Naturalist Georg Steller and the Russian Exploration of Alaska

Where the Sea Breaks Its Back: The Epic Story of Early Naturalist Georg Steller and the Russian Exploration of Alaska

  • 作者: Corey Ford
  • 出版社/メーカー: Alaska Northwest Books
  • 発売日: 1992/05
  • メディア: ペーパーバック

(この本のリンクを挿入しようとAmazonを検索したら、
また新しいステラー本が出ていました。買わないとな。)


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春分

一つ忘れていました。
この本のこの章のタイトルは「10時間のための10年」です。
ステラーのアラスカ探検は後にも先にもこの10時間だけです。
このときステラーは32歳だと思いますが、この時のために、
10年間勉強し、経験をつんで来たわけです。
「このような慌しい思いをした博物学者は他にはいない」と書かれて
いますが、まったくその通りです。
by 春分 (2008-03-15 23:35) 

はてみ

キトロフさんはちょっといやみですね。
メガネウってなんだ?
そしてたった10時間しか探検しないで、これからどこに行くのですか?
気になるので、次号を待ちます(^^)
by はてみ (2008-03-16 01:05) 

せつこ

ステラーは色々なものに名を残しているのですか!
初めて足を踏み込むことは勇気の要ることですが、学者は怖さより興味のほうへ頭の働くのが判ったような。
ホットチョコレートがいいですね!
by せつこ (2008-03-16 06:47) 

キタノオドリコ

ふ~む、草で水を濾す・・・どんな方法なんだろう?
あ、やっぱりナイフとケトルは喜ばれますね。
by キタノオドリコ (2008-03-16 07:14) 

albireo

何だか、ワクワクして来ました。
次回が楽しみです。
でも、かなりの労作だと思いますから、ゆっくりとでいいですよ。
by albireo (2008-03-16 07:45) 

ハギマシコ

ワ~・・・面白いお話です。本読めばいいんですがここで読みます(^・^)
ステラーカケス、、、アラスカ、カナダと行ってますが見ていません、、、。
頭の尖った青い(暗色)色のカケスです。他の2種は見ましたが、、、
名前の由来がわかってナイスです。次が楽しみです(*^^)v
by ハギマシコ (2008-03-16 12:20) 

SilverMac

御無沙汰です。やっと復帰しました。後でゆっくり読んでみます。
by SilverMac (2008-03-16 16:58) 

Baldhead1010

全然関係ないですが、今日家の裏でキジの雌に出会いました^^

カメラにはなかなか収まらず。飛び立ってしまった・・・。
by Baldhead1010 (2008-03-16 17:09) 

RAKI

何の保障もなく大海原へ漕ぎ出した人達の勇気はすごいです。
死と隣りあわせで、それでも前に進んで行って。
冒険者達!
by RAKI (2008-03-16 17:23) 

mamii

面白そうなものがたりですね、読んでみたいです。
by mamii (2008-03-16 17:29) 

めもてる

又次回を楽しみしてます。
by めもてる (2008-03-16 18:15) 

かいつぶりん

カイギュウだけでなくいろいろ名前が残ってるんですね。
by かいつぶりん (2008-03-16 18:39) 

lapis

面白くなってきましたね!
>また新しいステラー本が出ていました。買わないとな。
読まれたら、ブログで紹介していただけると、うれしいです。
by lapis (2008-03-16 20:08) 

HEIJI☆

ステラーという人のことがだんだんわかってきたような気がします。
アラスカ探検したかったな。子供の頃、そんなことに憧れてたのを思い出しました。
by HEIJI☆ (2008-03-16 22:05) 

きまじめさん

物語自体とても面白いですが、それと共に今まで知らなかったことが沢山書かれていて、
興味深くて、一気に読んでしまいました。  <あとの話>楽しみです。
by きまじめさん (2008-03-16 23:02) 

sakamono

給水よりも自分の興味のあるコトを優先してしまう、というのが博物学者の特質なのでしょうか。勝手に出かけて叱責なし、というのはどうしたコトだったのでしょうね。その後、上陸させてもらえないという罰はあったワケですが。
by sakamono (2008-03-17 00:18) 

春分

はてみさん、
> キトロフさんはちょっといやみですね。
プロフェッショナルはシロウトに口を出されるのを嫌がるものでしょう。
ステラーは進路や投錨地の指示をしているわけで、思えばとんでもないことです。
> メガネウってなんだ?
メガネをかけたウですね。大きなネウではないです。
> そしてたった10時間しか探検しないで、これからどこに行くのですか?
結局のところベーリング島です。 そしてステラーはアバチャ湾へ戻ります。

せつこさん、
> ホットチョコレートがいいですね!
疲れたときはココアに限ります。

キタノオドリコさん、
> ふ~む、草で水を濾す・・・どんな方法なんだろう?
ちょっといい加減に書きましたね、詳しく書いてあったのですが。
ムシロのようなものでろ過する感じだったかな。

albireoさん、
> 次回が楽しみです。
> でも、かなりの労作だと思いますから、ゆっくりとでいいですよ。
ありがたいお言葉です。3月中はもう1回くらい書けたらOKと思っています。
このあたりはずいぶん前に書いてあったところですが、訳も日本語もいい加減
過ぎて、少し見直していて今載せています。暇なわけではないのです。

ハギマシコさん、
> ステラーカケス、、、アラスカ、カナダと行ってますが見ていません、、、。
写真を撮ってきてくれたらなーと思ってましたが、そうもいかないですね。
北米にいらした方で見た方がいらっしゃいますね。割と多くいるのでしょうね。

SilverMacさん、
> 御無沙汰です。やっと復帰しました。後でゆっくり読んでみます。
私も後で伺います。

Baldhead1010さん、
> 全然関係ないですが、今日家の裏でキジの雌に出会いました^^
そろそろ活発に動く頃ですね。求愛の頃はそれどころじゃなくて無防備ですから、
撮りやすいですしね。

RAKIさん、
> 冒険者達!
そう。そして「冒険」が肯定的じゃない単語になってしまいましたね。
私には、そしてたぶん一般的にも「冒険者」はまだ光輝く単語ですが。

mamiiさん、
> 面白そうなものがたりですね、読んでみたいです。
オホーツク海はご存知でしょうね。私も見たことはありますが、
アラスカは遠かったようです。そして帰り道がもっと遥かに遠いのですが。

めもてるさん、
> 又次回を楽しみしてます。
とりあえず、3月中にもう1回書けるといいかと思っています。

かいつぶりんさん、
> カイギュウだけでなくいろいろ名前が残ってるんですね。
そうは思いますが、例えばシーボルトは

lapisさん、
> >また新しいステラー本が出ていました。買わないとな。
> 読まれたら、ブログで紹介していただけると、うれしいです。
背中を押されたので、早速頼みました。
ですが、以前も実は無かったということもありましたから、だめかも。
でもどうやら海外にはこの人物のファンがいるのですね。

HEIJI☆さん、
> ステラーという人のことがだんだんわかってきたような気がします。
よくも悪くもこんなやつですが。ちょっと共感してしまうところがありますね。
> アラスカ探検したかったな。子供の頃、そんなことに憧れてたのを思い出しました。
ジャック・ロンドンの「荒野の叫び声」を読んで、なんとなくアラスカのイメージが
できています。今のアラスカはまた違うのでしょうけども。子供の頃の印象は強いです。

きまじめさん、
> 物語自体とても面白いですが、それと共に今まで知らなかったことが沢山書かれていて、
> 興味深くて、一気に読んでしまいました。  <あとの話>楽しみです。
知らなかったこと?どのあたりかわかりませんが、オオワシやトドのことでしたら、確かに
私も最初に知った時にはちょっと驚きでした。日本近海の鳥と海獣ですからね。
シベリアから北海道、アリューシャン列島、カムチャツカのあたりは同じような生物相が
繋がった肥沃なベルト地帯だったのかもしれません。

sakamonoさん、
> 勝手に出かけて叱責なし、というのはどうしたコトだったのでしょうね。
「こいつには言ってもしょうがない」って思われちゃったのだと思うんですが。
> その後、上陸させてもらえないという罰はあったワケですが。
いや、どうも出発を急いだということのようです。それどころじゃなかったわけでしょう。
by 春分 (2008-03-17 21:12) 

sera

ステラーの話は名前だけ知って、
内容は知らなかったです。
面白そうですね♪
by sera (2008-03-19 20:26) 

mamire

命がけなのですが、未知の世界があるっていう時代がいいですね。
その未知の部分に今でも触れられるって面白いです。
解釈付きの冒険話なので、いつも楽しみに読んでいます。
by mamire (2008-03-20 10:52) 

パキちゃん

だんだん話が佳境に近づいてきましたね。
次も楽しみです。
by パキちゃん (2008-03-21 05:26) 

mimimomo

こんばんは^^
お水より大事な物があったとは・・・ステラーって人はやはり並じゃない(@@
by mimimomo (2008-03-21 19:46) 

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