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ステラーの航海(迷走する聖ピョートル号) [海牛]

「そこに海果てるところ(Where the Sea Breaks Its Back)」を
英語にめげつつ、あいかわらず休み休み読み進んでおりました。

Where the Sea Breaks Its Back: The Epic Story of Early Naturalist Georg Steller and the Russian Exploration of Alaska

Where the Sea Breaks Its Back: The Epic Story of Early Naturalist Georg Steller and the Russian Exploration of Alaska

  • 作者: Corey Ford
  • 出版社/メーカー: Alaska Northwest Books
  • 発売日: 1992/05
  • メディア: ペーパーバック


18世紀の博物学者ゲオルグ・ヴィルヘルム・ステラーと彼の乗る
ロシアの北方探検船「聖ピョートル号」の航海のその後ですが、
実は9章のステラー海牛(カイギュウ)まで読み終えています。
この話に興味を持ったきっかけ、幻の絶滅動物にやっと届きました。
本の章としては先の記事までで紹介できた章から4つも先です。

ということで目次を転記してみますと、

5章 A Sound of Gunfire  (銃声)
6章 "By the Will of God" (「神のご意思により」)
7章 Bering Island    (ベーリング島)
8章 The Long Winter   (長い冬)
9章 Steller's Sea Cow    (ステラー海牛)


先の「ステラーのシーモンキー」の出てきた章が5章です。
この後原住民(アリュート)との接触がありますが、私が思うに
その記述は章の一部でしかありません。
ご興味があればご覧下さい。

(興味のない方もいらっしゃるでしょうから、
 函館の載せ残し写真をちりばめます。)
kdx_8249.JPG


5章と6章の主なる話は航海や管理の失敗であり、死の記述
でしょう。船員らは長い船旅で健康を害して次々と働けなくなっ
ていきました。

主なる病気である壊血病については詳しく書かれています。ただ
あまり気持ちのいいものではありません。ちからを失い、痩せて
歯茎が腫れ出血します。ビタミンC不足による死に到る病です。

kdx_8466.JPG

8月には、多くの水夫にその症状が現れ、一刻も早い帰還が望ま
れました。しかし、船は遅々として進みません。始めてアラスカ
に上陸したカヤック島を後にしてから3週目には不十分な補給で
あった水も尽きるように思われました(ステラーはまだ大丈夫だと
思ってましたが)。
そこで、ついには副官ワクセルと隊長キトロフ、それと他の士官  
ハッセルバーグは相談して、いったんアバカ湾へ直行することを
断念し、補給のため北上することにしました。ベーリングは臥せ
って指示は出せる状態ではありませんでした。
ワクセルとキトロフは十分な判断力と指導力はなく、更には互い
に仲がいいわけでもないようです。
何はともあれ、この判断により8月29日に木々のない岩だらけ
の多島域に到ります。後のShumagin(シュマギン)諸島です。
大きな地図で見る

ここでステラーはキトロフに給水に行くよう誘われます。
私の読解力が乏しいので、ステラーと従者リプキン(他に船付き
の画家も一緒に行ってますが)がなぜ誘われたかはわかりません。
しかし、たぶん水夫の多くは病気で使い物にならず、人手が必要
だったのでしょう。ステラーたちは壊血病にはなっていなかった
ようです。
ステラーとしても、上陸したい思いはありました。夜、別の島で
はありましたが海岸に焚火を見ており、原住民との接触を期待し
てのことでした。

kdx_8296.JPG

ステラーはこのナガイ島での給水でも船員たちと対立をします。
ステラーは給水に上陸した水夫たちが湧き水を探さず海岸近くの
たまり水を汲んでいるのを目にします。これを非難しても水夫ら
は士官達がステラーを軽視していることをよく知っていて無視し
ました。ステラーはワクセルに水のサンプルを送り給水を改める
ように要求しますが、ワクセルは「この水のどこが悪いのか」と
受け付けませんでした。船乗りは水の悪さに動じてはいけないと
いうことのようでした。
しかし、アルカリの塩を含む黒っぽい水はその後の船員すべての
健康悪化を決定的にした失敗となりました。
そして、原住民との接触もありませんでした。

この島でのステラーの唯一のしかしたいへんな幸運は、
壊血病に効くハーブ、スプーンウォートが生えていたことでした。
船に怪我の薬は十分あっても壊血病の薬は殆どなかったので。
ステラーはこのハーブを持ち帰り、患者に飲ませるようワクセル
に提言するのですが、これも受け入れられません。
(私は、言い方が悪かったのではないかと思うんですが。)
泣いて頼んだとステラーは書いているようです。ただ最後に
「ベーリング提督はスプーンウォートで重い壊血病から復活でき
たのは下級水夫の果てまで知っている」と言うに到り、ワクセル
はやっと了承しました。

kdx_8288.JPG

スプーンウォートを処方され、好天もあり、患者は上陸させて、
壊血病の治療がなされました。
ただ急な変化に1人の水夫はここで亡くなり、この島に葬られま
した。この諸島に名を残す水夫ニキータ・シュマギンでした。
まだアラスカ半島の端にあたる島のことですので、この水夫は
アラスカに葬られた最初の白人になりました。


なお、ステラーはこの島で多数の動植物を観察しています。
キツネに吼えられ、マーモット(プレイリードッグのようなやつ)が
鳴き、オオカミの痕跡を見つけています。
流れや深みにハゼ(sculpin)やDolly Varden trout(岩魚の類)
水鳥は多く、ハクチョウも記録されていました。ウやウミスズメ、
シギ類、さまざまなカモメ類、グリーンランド鳩(ウミバト?)、
ツノメドリ(puffin)がいました。対して、陸の鳥は、ヒタキ類
(Flycaucher、アメリカでは初報告)、ワタリガラス、ライチョウ
などを記録しています。
(ついでながらオオルリもキビタキもFlycaucherですね。)
植物は先に上陸したカヤック島に似た様子ではありましたが、
多く記録し、先に述べたスプーンウォートもみつけています。


下の航路を示す小さな地図にループを描き北上する様子が認められます。

kdx_9426.JPG

8月29日にたどり着いた後、次に海上に記録が残るのは9月
6日です。この島で体力回復と「水」の補給を終えて島を離れ
ようとしたとき、風の具合が悪く足止めを余儀なくされました。
そのことで、聖ピョートル号はアメリカ原住民との遭遇を果た
すことになりました。
仕方がなく投錨したバード島で、原住民はカヌーを漕ぎ寄せて
きました。

さて、次はいつ書けるかな。


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コメント 28

アヨアン・イゴカー

"Where the Sea Breaks Its Back"面白そうですね。事実は小説よりも奇なりですから、常に事実の方が劇的で、示唆に富んでいると思います。
紀伊国屋か丸善で見つけたら、買うかもしれません。

函館の二枚目の写真、美しいですね。
by アヨアン・イゴカー (2008-06-01 21:02) 

yakko

残雪の山と手前の街の写真が良いですね。
by yakko (2008-06-01 21:15) 

sera

ステラーの本を色々読みましたね♪
写真、海はいいですね~丸くなって♪
by sera (2008-06-01 21:33) 

aya

続きを教えて欲しい・・と思いました。どうなるのかしら!!
海の写真は好きです(*^_^*)
by aya (2008-06-01 21:58) 

RAKI

遠い海の果てで力尽き、見知らぬ土地に葬られて。
祖国に帰りたかったでしょね、きっと。
家族の元に帰りたかったでしょうね。
当時の船乗りの定め、覚悟はできていたんでしょうが・・・
by RAKI (2008-06-01 22:51) 

aranjues

自分ではとても読む気にはなりませんね。
内容はとても興味深く、是非遠からず続編を御願いします。
by aranjues (2008-06-01 23:05) 

ハギマシコ

だんだん面白くなってきました・・・(^・^)
動物や鳥が登場してきて、、、ツノメドリやウミガラス、ウミバト・・・レブン、ライチョウ・・・ムシクイ、、、ハクチョウ、、、アラスカで見ました(^^♪

by ハギマシコ (2008-06-02 01:31) 

mimimomo

おはようございます^^
後ほどまた伺います~
by mimimomo (2008-06-02 06:04) 

chichiの母

原語での読破は尊敬してしまいます。
春分さんにピッタリと合った作品ですね。
函館の写真も、散りばめて下さって嬉しいです。
by chichiの母 (2008-06-02 06:35) 

キタノオドリコ

壊血病を知ったのはいつの頃だろう。「宝島」?
以前も書きましたが、慶長遣欧使節船の日本人が壊血病にならなかったのは、味噌を積み込んでいたから・・・という説があります。
しばらく読書休んじゃっているなぁ、再開しようかな。
by キタノオドリコ (2008-06-02 06:52) 

さとふみ

当時、海藻を食べるという習慣または智慧があれば壊血病は防げたかもしれません..
by さとふみ (2008-06-02 07:42) 

ぱふ

探検家という人種は、勇気があるなあ。
月並みな感想ですが。
by ぱふ (2008-06-02 08:10) 

SilverMac

長い航海の大敵は壊血病だったようですね。
by SilverMac (2008-06-02 08:44) 

びっけ

アメリカ原住民との接触・・・続きが気になります。
壊血病に効くハーブ、スプーンウォーとかぁ・・・ビタミンCが豊富なのでしょうか?
合間に挿入された函館の写真が、とてもストーリーと合っていて感心しました。
砲台?軍事施設?跡地のような写真、なぜか惹き付けられます。
by びっけ (2008-06-02 09:10) 

めもてる

ストリーの展開、原住民との接触、あー次回が楽しみです。
by めもてる (2008-06-02 10:26) 

春分

アヨアン・イゴカーさん、
> 紀伊国屋か丸善で見つけたら、買うかもしれません。
まだ途中ですが、面白い本と思います。
英語の得意な人ならあっという間に読めそうです。
私はただでも苦手なのに生物の名前と船の用語が出てきて困ってます。
> 函館の二枚目の写真、美しいですね。
ありがとうございます。雪の山の写真でしょうか。
この日、北海道中で5月の積雪がありました。

yakkoさん、
> 残雪の山と手前の街の写真が良いですね。
残雪に見えるでしょう。でも、前日の突然の降雪の後です。
まあ残雪と言ってもいいのかな。でも5月ですので1日で消えました。

seraさん、
> ステラーの本を色々読みましたね♪
あれ?もう一冊買ったって言ってましたっけ。まだ読めてませんが。
seraさんならあっという間に読めるのでしょうね。

ayaさん、
> 続きを教えて欲しい・・と思いました。どうなるのかしら!!
いかにもって言うところで止めましたからね。
本当は原住民のところも書いて、その後の嵐のところを次にしたかったのですが。
> 海の写真は好きです(*^_^*)
いいでしょう、こんな寂しげな海も。

RAKIさん、
> 遠い海の果てで力尽き、見知らぬ土地に葬られて。
> 祖国に帰りたかったでしょね、きっと。
水夫あたりはそれなりの覚悟があったとは思います。命がけは男のロマンですし。
でも、最後に「畳の上で死にたかった」と思ったでしょうかね。
たぶん畳とは思わなかったでしょうけども。ロシア人だし。

aranjuesさん、
> 内容はとても興味深く、是非遠からず続編を御願いします。
私も逃げないようにと、逃げにくいラストにしてみました。でも、どうかなぁ。

ハギマシコさん、
> だんだん面白くなってきました・・・(^・^)
もしかして、鳥が出てこないと面白くないですか?
この後出てきたかなー。おお、例の絶滅鳥類ステラーメガネウがいましたね。

mimimomoさん、
> 後ほどまた伺います~
忙しそうですね。

chichiの母さん、
> 春分さんにピッタリと合った作品ですね。
どのへんがかな?
お会いしたからおわかりかもしれませんが、私はどっちかと言うとワクセルの
タイプですね。暫くワクセルはだめだめを続けます。残念です。

キタノオドリコさん、
> 壊血病を知ったのはいつの頃だろう。「宝島」?
宝島?おたくものの別冊の多い雑誌?・・・じゃない方ですね。というか普通の方。
出てきましたか?

さとふみさん、
> 当時、海藻を食べるという習慣または智慧があれば壊血病は防げたかもしれません..
海藻もビタミンCが豊富でしたっけ。思えば不思議ですね。気付いてよさそうなのに。
味がきらいでしたかね。
そういえばイヌイットは生肉を食べることでビタミン不足を回避しましたね。
どうしても野菜が必要ということでもなさそうですね。

ぱふさん、
> 探検家という人種は、勇気があるなあ。
どうなんでしょうね。何が勇気なのか。

SilverMacさん、
> 長い航海の大敵は壊血病だったようですね。
間違いなくそうですね。そして陸地の探検ではいろいろな伝染病に悩まされますね。
冒険は、基本的に健康にはよくないようです。

びっけさん、
> 合間に挿入された函館の写真が、とてもストーリーと合っていて感心しました。
寂しげだからでしょうかね。
> 砲台?軍事施設?跡地のような写真、なぜか惹き付けられます。
以前書きましたが、函館山は戦時中民間人立ち入り禁止の要塞でした。
これは確かに砲台跡でしょう。津軽海峡は防衛の要です。たぶん今でもそうですね。

めもてるさん、
> ストリーの展開、原住民との接触、あー次回が楽しみです。
そう言って頂けると書かなければという気になります。


by 春分 (2008-06-02 20:46) 

lingnam

ステラー牛の話題は興味がつきません。
今もう見ることができないせいか、想像力をかきたてられます。
函館山に廃墟が??砲台があったのですか。
たしかにここは今も昔も防衛の要でしょうね。

by lingnam (2008-06-02 21:03) 

みっきぃ

久しぶりに遊びに来たらブログのイメージが
変わっていてビックリ!
今日はとても勉強になりました。
by みっきぃ (2008-06-02 21:13) 

かいつぶりん

不思議とステラーの話と函館の写真が合ってますね。
生きるのもやっとな状態でいろいろ生物を観察しているのがすごいですね。
by かいつぶりん (2008-06-02 23:35) 

はてみ

雨の休日にはステラーの記事を期待してしまいます。
砲台跡の写真、ついうっかりシュマギン諸島と一瞬思い込み、
「なんと、上陸したら遺跡があったのか」と一瞬思ってしまいました。
恥ずかしい勘違いですが、それだけ物語に入り込んでいたってことで、
一応報告しておきます。
by はてみ (2008-06-02 23:46) 

野うさぎ

すい込まれるように、読んでいました。面白いですね
だんだん分かるようになって来ました。どうなるんでしょう・・

by 野うさぎ (2008-06-03 00:45) 

yoku

ピヨートル号の苦難の永い航海。
平穏な航海だと、めでたし、めでたしで終わるの
でしょうが、トラブルを抱えての航海ではどうしても
乗組員どうしの仲たがい、いさかいなどが起こってくる。
ステラーもちょっと浮いている様子がみえますが、
まじめに対応しているだけに、かわいそうな気もします。

by yoku (2008-06-03 10:13) 

ゴーパ1号

ビタミンCですね!
by ゴーパ1号 (2008-06-03 10:49) 

mimimomo

こんにちは^^
今と違って色々分からないことの多かった時代の航海ですから、
皆大変な思いをしたようですね~
スプーンウォートってVCが豊富に入っていたのかしら・・・
ステラーカイギュウが出てくるまでもう少し・・・


by mimimomo (2008-06-03 14:50) 

春分

lingnamさん、
> 函館山に廃墟が??砲台があったのですか。
> たしかにここは今も昔も防衛の要でしょうね。
はい。戦時中は全山民間人立ち入り禁止の重要拠点でした。
中央の御殿山周辺の遺構は整えられていますが、この写真の側は
あまり多く人の来るほうではないので廃墟のままです。
千畳敷という側です。ご興味があればお立ち寄り下さい。

みっきぃさん、
> 久しぶりに遊びに来たらブログのイメージが
> 変わっていてビックリ!
いや、そうでもないつもりです。ありきたりな日常を記録していますよ。
でも、この海牛シリーズはちょっと違う世界を紹介していますかね。

かいつぶりんさん、
> 生きるのもやっとな状態でいろいろ生物を観察しているのがすごいですね。
ステラー自身はハーブティーとかを飲んでて比較的元気ですからね。
でも、死ぬ間際まで観察したでしょうね。そんな様子が想像できる人物です。

はてみさん、
> 雨の休日にはステラーの記事を期待してしまいます。
そうかなと。
日曜日は晴れましたので、次は鳥の記事ですかね。
入梅したようで、梅雨のうちに物語の長い冬を越すまで書けるといいのですが。
> 砲台跡の写真、ついうっかりシュマギン諸島と一瞬思い込み、~
Googleでもこの辺りの詳細な航空写真は掲示を許可されてませんね。
軍事目的の施設や集結地があるのでしょう。今ならこんな様子かもしれません。
この海にはトラック島もありますし、彼らの母港アバチャ湾も先の大戦の拠点
でした。

野うさぎさん、
> すい込まれるように、読んでいました。面白いですね
> だんだん分かるようになって来ました。どうなるんでしょう・・
基本的には生還の物語です。ただ、登場人物全員とは行きませんでしたが。

yokuさん、
> ステラーもちょっと浮いている様子がみえますが、
> まじめに対応しているだけに、かわいそうな気もします。
結婚も経験した30過ぎですが、やはり若いということでしょうか。
学者ですしね。小柄である前に性格が小僧ではあります。

ゴーパ1号さん、
> ビタミンCですね!
ですね。夏野菜を取りましょう。いい季節です。

mimimomoさん、
> スプーンウォートってVCが豊富に入っていたのかしら・・・
アブラナ科ということですから菜の花みたいなものでしょう。
どうも壊血症に効くということになっていたようです。
> ステラーカイギュウが出てくるまでもう少し・・・
うーん、それがまだもう少しありまして。
一番苦しいのはこの後かもしれません。

by 春分 (2008-06-03 21:11) 

誠大

知的な春分さんから学ばせていただくことは多いです。
by 誠大 (2008-06-03 21:49) 

lapis

>私は、言い方が悪かったのではないかと思うんですが。
春分さんの今までの記事の内容からすると、
その可能性は高いと僕も思います。
by lapis (2008-06-05 23:49) 

po-net

続き楽しみにしとります。スプーンウォートが気になって検索したら
最初に春分さんの記事がヒットしました。
by po-net (2008-06-08 17:44) 

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