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武揚伝 [雑本]

久しぶりの本ネタです。 

タイトルの「武揚伝(ぶようでん)」。冬に読んで、さすがに読み終えていた
のですが、地震やら花の季節やら鳥の季節やらで感想をアップできずにいました。

榎本釜次郎武揚(えのもとかまじろうたけあき)の半生です
文庫本にして4冊にまとめられたこの江戸末期(正確には明治にも及ぶ)の物語、
いつか必ずやNHK大河ドラマになることと思いました。
なんでしたら、新幹線が函館にまで達した年に放送されて、函館界隈は大賑わい
というような、更に、翌年から欧米を含む海外でも放送されてKAMAJIROブーム
で暫くは函館は外国人客が引きも切らずで好景気ということでどうかなと、思って
みたりもしました。まあ、地震で少しそんな目論見もかすんでしまったかな。でも
逆に改めて観光客を招く起爆剤となるのではないかなとの夢ももったり。

そして、最初の北海道新幹線には「かいよう(開陽)」と名前がつけられると
もっといいのだがとかも、思ったんですが
、まあ、すべてはそもそもが妄想で、
更には地震の後に見る夢としては、調子の良すぎる大法螺夢物語ですけれども。
それでも、榎本釜次郎武揚らの夢に比べると、なんとも小さい夢ですけれども。 
 
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栴檀(センダン)。駒込の諏訪山吉祥寺で。


冬の頃を思い返してみますと、実は相当苦しい読書でした
たかだか文庫本4冊読み終えるのに1ヶ月以上かかりました。
始めはいい調子でしたが、だんだんページをめくる手が止まり、1ページ読んで
はまたカバンにしまって、朝、昼、晩と1ページずつ進むような牛の歩みでした。

書き手が下手なわけではないです。確かに後半は地名や時期、人物名が淡々と
書かれ、記録資料の空気がところどころありますが、そこに嵌り込みたくなければ
流し読めばいいだけです。
手が止まるのは、この話の後半が負け戦の話だからでしょう
 

頭脳明晰・人望厚いこの人物、榎本釜次郎武揚に1、2巻で感情移入させられて、
その後、後半にままならぬ時代の偶然、予想できない災難、何よりも味方の側の
奸物たちによる拘泥に輝かしい理想と未来と仲間たちは失われていきます。

誰もが言うように、歴史に「もしも」はないのだけれど、事件の1つが、天候の
1つが違えば、まったく違った日本がそこにあったと思われてなりません。

すべてをぶち壊しにした人物として徳川慶喜と、そして誰より諸悪の根源として
勝海舟が描かれます。そこは読み物ですから、作者の視点は反映されますけど、
NHKの竜馬伝の翌年になんではありますが、勝は本当にだめだめなやつです。
もちろん、本当はそれだけではないのでしょうけども。


これは「武揚伝」を読むことを薦める書評ですから、これを読んだなら騙された
と思ってこの文庫本を読んで頂きたいというのは私の申し上げたい第一です。
しかし「苦しい読書はいやだし」と躊躇う人には少し余計な情報も書きましょう。
ネタばらしということでもないですが、もしまっさらな気持ちで読んでみたいと
言われるなら、直ちにこのページを閉じて、Amazonで本を予約して下さい。
(そんなに新しい本ではないので、書店にはないかもしれません。)

余計な情報も厭わないという人に、少しだけ書いていいのなら、この話が榎本の
どの時点までで終わるかということは示したい。
というのは、史実ゆえご承知の方も多いと思いますが、榎本武揚はそもそも海軍
伝習所で蒸気機関を学び、オランダ留学もし、技術ばかりではなく国際法も学び、
帰国して海軍奉行となり、勝算あって徹底抗戦を説き、幕府海軍を率いて北海道
に渡って、蝦夷共和国を作るべく箱館戦争を戦った・・のは、半生に過ぎません。
敗戦の将として獄につながれた後、罪を問われることなく許され明治政府のため
働くことになります。そして外交官、海軍提督、逓信大臣の際は郵便局のマーク
(〒)を作ったり、農商務大臣では、あの足尾鉱毒事件にしっかり向き合い責任
を取ると言う、後半生もネタには事欠かないわけです。
私は、1巻が黒船来航と北海道探索と海軍伝習所、2巻で留学、3巻で箱館戦争
を含む維新戦争、そして4巻が明治以降かと思っていましたが、違いました。
ほぼ話は箱館戦争で終わります。
「武揚伝」は半生記です。

でも、これ以上書いてはいけないと思います。
読んでもらわないと。

繰り返しになりますが、この話、負け戦です。
悲しくて悔しくて4巻は4分の3、いや5分の4くらいまで読むのが辛い。

特に「開陽」が江差で沈んだことは、道南生まれの私はもちろん知っています。
作者は読む人が知っていることを前提にしていると私は思いました。作者、
佐々木譲は、初めから開陽を特別な存在として描きます。

函館出身の私も、恥ずかしながら箱館戦争についての本を始めて読みました。
良く知った地名が語られ、進軍の様子を私はきちんと想像できたと思います。
どの地名も、歩いてどのくらい、自転車ならどのくらい、地形はどんなものと
身体で知っている場所でしたから。でも、それがまた辛い。木古内が落ちたか、
矢不来(やふらい)の攻防とか、茂辺地(もへじ)で止め得なかったかとか、
弁天台場が落ちたとか、そして四稜郭と千代台まで追い込まれ、玉砕覚悟の
攻防、そして土方さんが千代台近くで最後を向かえ、五稜郭は落城します
落城は5月18日か。その日にこのネタはアップしておけばよかったですけど)。


さて、もうここで読む気になっているなら、こんなブログは閉じて、Amazonで
ポチっと購入して下さい。ここにリンクを張っておきます。

武揚伝〈1〉 (中公文庫)

武揚伝〈1〉 (中公文庫)

  • 作者: 佐々木 譲
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2003/09
  • メディア: 文庫

でも、本当の私の感想は以下の通り。
その敗軍の将の姿が、めちゃくちゃかっこいいです。
(榎本武揚は、五稜郭での入れ札、即ち投票で総裁に選ばれていました。)
榎本釜次郎武揚。世界の多くの英雄と並べて恥ずかしくない男の物語です。
その姿を見るために、もう一度最初から苦しい読書をする価値があります。
暫くは、読み返さなくてもいいですけども。今の私は思い返すだけで涙を流し
そうになります。私の中で、その姿はまだまだ薄らぐことはなさそうです。

榎本武揚の夢が何だったかは、明瞭に主張されています。
見果てぬ夢ながら、夢が理想そのものであることにまた
泣きそうになります。
 
 

そして、
先週、榎本武揚の墓のある駒込の吉祥寺に行って来ました。
お墓も見て、許可を得て写真も撮らせて頂きました。
次の記事にします。

IMG_8889.jpg
 


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コメント 15

aya

北海道新幹線が出来たら、春分さんを思い出すでしょう。
センダンの花、ちゃんと見たのは初めてかも♪
by aya (2011-05-22 16:08) 

okko

大好きですよ、佐々木さんの小説。以前、五稜郭を脱走した兵士3人を描いた話(タイトル忘れました)読んで以来。
武揚ほど誤解され易い人もすくないですね。江差で復元された開洋丸も見学しました。面白そうです。石狩代表として、読んでみましょう!
by okko (2011-05-22 17:01) 

okko

読んだ本のタイトル「五稜郭残党伝」でした。武揚伝は、新田次郎賞をもらっているんですね。いい本を教えて下さって、有難うございました。
by okko (2011-05-22 17:38) 

Silvermac

元幕府側で新政府に重用されたのは榎本武揚と勝海舟でしょうね。
by Silvermac (2011-05-22 19:08) 

mimimomo

こんばんは^^
新幹線は函館素通りと言うか、他のところを走るのでしょ? 函館に行きにくくなるなーって、思った記憶が。
歴史小説は弱いです。
でも負け戦の本は遅々として進まなくなるというのはわたくしにも分かります。
ローマ人の物語を読んでいてそうでしたから。
センダンのお花、今スペインに沢山咲いていました。わたくしも写してきました。
by mimimomo (2011-05-22 19:26) 

袋田の住職

函館では五稜郭に真っ先に行きました。
箱館奉行所は再建途中でした・・・
吉祥寺さんにあったんですか・・・
けっこう有名人のお墓もあるようです。


by 袋田の住職 (2011-05-22 20:26) 

キタノオドリコ

なるほど、栴檀と吉祥寺はここに帰着するのか。
幕臣でありながら榎本は明治政府でも要職を担うんでしたよね?
わが地域の豪商、榎本艦隊にはせっせと米・味噌など供出したようです、現代の貨幣価値に換算したら莫大な量の。それに比べて官軍の行儀の悪さといったら・・・という話がまことしやかに伝わっています。
by キタノオドリコ (2011-05-22 21:46) 

くまら

思わず読んでみたくなりました
ブックオフで探してみます^^
by くまら (2011-05-22 23:46) 

psvt.abl

観光地としての五稜郭はとても綺麗で、五角形のような建物にも感動しました。お城などもそうですが、大昔に戦争があった場所なのだと感慨深くなります。
by psvt.abl (2011-05-23 12:29) 

ふじかわ

五稜郭、行ったことないんだなぁw行きたいなw
by ふじかわ (2011-05-23 22:11) 

春分

ayaさん、
> 北海道新幹線が出来たら、春分さんを思い出すでしょう。
新函館まではたぶん2015年です。もう少しですね。

> センダンの花、ちゃんと見たのは初めてかも♪
色合い的にはお好きなタイプではないでしょうか。透過光もいけそうです。

okkoさん、
> 大好きですよ、佐々木さんの小説。以前、五稜郭を脱走した兵士3人を描いた話
> (タイトル忘れました)読んで以来。
趣味に合う本を紹介できて光栄です。
追加コメントの通り、そっちの話は「五稜郭残党伝」ですね。私も読まないといけないか。
佐々木嬢は他にもこの時代を書いています。相当好きなのでしょう。

> 武揚ほど誤解され易い人もすくないですね。~
どこが本当でどこが誤解かは難しいところですが、潔く死なず徳川にも新政府にも仕える
姿勢が嫌われたのでしょうけど、たぶん生涯を通じて仕えたのはどちらでもないのかなと。
そんなあたりを読んでみて頂けるといいかと思います。最後は、良く出来ています。

Silvermacさん、
> 元幕府側で新政府に重用されたのは榎本武揚と勝海舟でしょうね。
Silvermacさんは当然のことながら竜馬の側の人ですし、勝海舟派でしょう。
この話、新政府側も朝廷側も徳川も敵に回した話ですから、北海道と東北の人以外は読んで
はいけないのかもしれませんが、読んで「おれは認めん!」と叫ぶもまた一興かとも。

mimimomoさん、
> 新幹線は函館素通りと言うか、他のところを走るのでしょ? 
> 函館に行きにくくなるなーって、思った記憶が。
たぶん、明治村的な旧市街の様子になって行くのかと思います。作られたテーマパークとは
違いますから、それはそれで趣もあろうかと思われます。

> センダンのお花、今スペインに沢山咲いていました。わたくしも写してきました。
何か東洋の花のイメージでしたが、センダンも隅に置けないなぁ。

袋田の住職さま、
> 函館では五稜郭に真っ先に行きました。
> 箱館奉行所は再建途中でした・・・
先日行った時にはできてましたが、鳥ねらいの私が歩くのは朝で、開いてませんでした。

> 吉祥寺さんにあったんですか・・・
> けっこう有名人のお墓もあるようです。
そのようですね。
「本山関係者以外は立ち入らないように」との立て札がありましたので、受付に寄って
お参りしたい旨、写真を撮りたい旨、ブログに載せたい旨を話しましたら、大変丁寧に
「榎本家のお墓はいいでしょう。好意的に載せて頂くのは歓迎」とのことでした。
その笑顔の対応は本当にうれしかったですが、ということで、多少良く思わなかったり
全然知らなかったりするお墓の写真を撮って載せるのは憚られました。
鳥居要蔵のお墓は参っておりません。

キタノオドリコさん、
> なるほど、栴檀と吉祥寺はここに帰着するのか。
ある種、あざとい伏線と誰も気がつかない仕込みがこのブログの特徴でして。気が付かれないけど。

> わが地域の豪商、榎本艦隊にはせっせと米・味噌など供出したようです、現代の貨幣価値に
> 換算したら莫大な量の。それに比べて官軍の行儀の悪さといったら・・・という話がまこと
> しやかに伝わっています。
「武揚伝」もほぼその視点ですね。

くまらさん、
> 思わず読んでみたくなりました
> ブックオフで探してみます^^
いくぶん大げさに書いていますから、面白くなかったら許して下さい。

psvt.ablさん、
> 観光地としての五稜郭はとても綺麗で、五角形のような建物にも
> 感動しました。お城などもそうですが、大昔に戦争があった場所
> なのだと感慨深くなります。
曽祖父の時代と思うと、そう遠いことではないですね。
地名や史跡も探すといろいろあるんですよね。

ふじかわさん、
> 五稜郭、行ったことないんだなぁw行きたいなw
普通の公園ですが、人間の夢の後なのですよね。ぜひお寄り下さい。
函館山も第二次大戦の要塞後がありここも夢の後です。こちらもどうぞ。
by 春分 (2011-05-24 05:47) 

momoe

今年の大河を観てると
好きな歴史上の人物は
逆に取り上げないでくれという気になりますよ…
それはともかく、私もAmazonに行ってみます^^

by momoe (2011-05-24 20:27) 

せつこ

あの時代の人は、夢を持って行動をしてましたね。
平和ボケしている今の人たちから比べたら、人間が大きい、と言えば良いのか、オトナと言えば良いのか分かりませんが、スケールが違いますね。
主人は行ってますが、私はまだ行ったことがないので、五稜郭へ行ってみたいです。
by せつこ (2011-05-25 03:30) 

招き猫

本ネタをまとめるのがお上手だな~。
読んでみたくなったところに「Amazon」を置いて、
お上手だな~(^^ゞ
司馬遼太郎著の中にも幕末の動乱期に長岡藩を独立国家にしようとした河合継之介の小説「峠」がありますし、
戦国時代にも多くの武将が・・・、古くは奥州藤原氏が独立国家を目指しています。
女はどんな時代が来れば民衆を率いる自由の女神になれるのでしょう。
by 招き猫 (2011-05-28 12:55) 

春分

momoeさん、
> 今年の大河を観てると
> 好きな歴史上の人物は
> 逆に取り上げないでくれという気になりますよ…
私も今年は「世界の果てに行ってQ」を見ています。

せつこさん、
> 主人は行ってますが、私はまだ行ったことがないので、五稜郭へ行ってみたいです。
ぜひ。
今年は、そして来年くらいまでは、中国人も少ないかと思います。
人の少ないかつての静かな公園を見ることができることでしょう。

招き猫さん、
> 女はどんな時代が来れば民衆を率いる自由の女神になれるのでしょう。
人類の歴史150万年。男の支配がわかっているのは卑弥呼没後として
1700年前くらいですしょうか。人類史の999/1000は女性が支配して
いたのではないでしょうか。最近の1/1000だけ男支配。証拠はないが。

by 春分 (2011-05-29 21:02) 

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