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ラスト・ブレス [雑本]

奥さんも外出、じいさまもショートステイで、長男は放っておいても
いいし、ガソリンは満タン、一日鳥の観察に好適な週末でしたが、
市内も雪が降り予報をみても雨風は止まず、出られませんでした。
義父の法事の日です。遊びに出ようというのがそもそも間違いか。
生きてる方の父が具合が悪くなったと連絡があるかもしれないし。
おとなしくしないとな。

でも、
また体調を崩したのは私自身で、本日は寝て暮らしていました。


そんなわけで写真も特にないものですから、
一昨日読み終えた本について書きましょう。

「ラスト・ブレス -死ぬための技術-」

ラスト・ブレス<死ぬための技術> (講談社文庫)

ラスト・ブレス<死ぬための技術> (講談社文庫)

  • 作者: P. スターク
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/02/10
  • メディア: 文庫

タイトルは、
「最後の祝福(Last bless)」ではなく「最後の一息(Last breath)」。
「死ぬための技術」と言う副題は序章で触れられた「アルス・モリエンド
(ars moriendi)」という古いラテン語が元でしょうが、「技術」と言う
和訳は違和感があって、arsはartなのでしょうし「所作」とか「英知」と
いうようなことじゃないのかなと思います。
「死に際しての所作」か「死の際の英知」かな。
 

作者ピーター・スターク(Peter Stark)はもっぱらノンフィクションを
書くアウトドア冒険関係の作家で、三代続く冒険家一家に生まれ、
自らも若い頃からアウトドア冒険家で、今は世界各国を旅し紀行文
を書くといういい身分であるらしいです。日本ではこの本しか出して
いないようですが、洋書で見るとAmazonで何冊かひっかかります。

Last Breath: The Limits of Adventure

Last Breath: The Limits of Adventure

  • 作者: Peter Stark
  • 出版社/メーカー: Ballantine Books
  • 発売日: 2002/10/01
  • メディア: ペーパーバック


そもそもこの本もAmazonさんにお薦め頂いたものなのですが。

さて「ラスト・ブレス」は、しかし、ノンフィクションではありません。
創作短編小説です。
各章のタイトルは以下の通り。

第一章 低体温症、 第二章 溺死、 第三章 高山病、
第四章 生き埋め、 第五章 壊血病、第六章 熱射病、
第七章 墜落死、第八章 人類の天敵、 第九章 潜水病
第十章 脳性マラリア、 第十一章 脱水症状 

つまり、人の死の際の様子を延々と様々並べた
短編集です。

作者が得意とするノンフィクションのような書きっぷりで創作の
良さを生かし典型例をリアルに書いています。
つまり死の典型例を。絵で言えば写実絵画のようなものか。
それぞれの物語の主人公は全員が死ぬわけではないですが、
少なくとも瀬戸際まで行きます。
冒険家の話ですから、生き埋めは、雪崩の話、他もアウトドアの
絡む話です。人類の天敵は、有毒生物の話です。
和書の表紙は転落死のフリークライマー、洋書版の表紙は溺死
のカヌーイストですね。

まあ、趣味が良いとは言えないですよね。
まして「畳の上で死ねない人」ばかりなのですから、もしも血生臭
い話がお嫌いでしたら、読んではいけない本でしょう。

ただ、やはり死をめぐる話はドラマチックです
目を背け勝ちな死を想像することで多くの感慨が得られます。
また、得られる知識を喜ぶ人には、学術的な総説を読むように
多くの知識が得られます。少なくとも知識を確かなものにする
ヒントを得るであろうと思いました。
死への好奇心を満たす必読書かもしれません。
特に、どこかで死の匂いを求めてしまうアウトドア趣味の人には。
あるいは極限を目指すアスリートにも。ハッと気づかされる数字も
書かれていています。例えば、「最も凶暴な動物は間違いなくホモ・
サピエンスだが、次は毒蛇で毎年の犠牲者は10万人ほど、人が
殺すのの10%に及ばない。その次のワニになるともう960人で
しかない」とか「途上国より先進国で転落死は多い」などなど。
ちなみに、ワニの次が虎。サメに殺されるのは9人!

さて、こんな有用な本ながら、その上で趣味の分かれるところは、
味付けに少し余計に科学と宗教が語られます。
例えば、低体温の話では「人間は25度まで冷やされると死ぬ」
「しかし14度まで下がっても蘇生した例はある」とある。その上で
「体温が29.5度まで下がっていよいよ死ぬという段階になると
人は着ている服を破っても脱ぎ捨てようとする~」などと、刻々と
変化する凍死までの時間と体温変化が記載されます。
あるいは、溺死でカヌーイストが中国の激流に臨む話では、
「天の下で水ほどやわらかく、なされるがままのものが、あろうか。
だが、剛強なるものを損ねるにも、水にまさるものは、ないのだ。」
という老子の言葉から始まります。
たくさんの歴史の事例、医学的知識、宗教や民俗への言及(
日本の辞世の句の話だとかスーフィー教というイスラムの話など
面白そうだけど怪しげな知識がまことしやかに書かれています。
それと登場人物の多くがお金に恵まれて冒険に出かける知恵や
体力を持っている様子などがよくも悪くも文章の特徴になっていて
そこにスノビズムを見るなら、死と言う大切なものを冒涜する感じが
するかもしれません。

さて、そんな本をなぜ読んだかと言えば、先ほど書きました通り、
Amazonが私がこれまで読んだ本を元に推薦して来たからですが、
それは間違いなく第五章の壊血病の関連です。
ヨットで1人長旅に出た男に、その旅の直前に別れた彼女が餞別に
「ベーリングの航海」の本を贈るという話です。博物学者ステラー
(この本の表記はシュテラー)により書かれたその本にはビタミンC
不足による死病、壊血病の記録が綴られていました。ということで、
ステラー関係の本を(洋書しかないのですが)Amazonで何冊か買って
いる私はこの本を買うだろうと読まれたわけですね。ぴんぽん♪です。
ただ、ベーリングとステラーに関する記述は乏しく、肝心のステラー
カイギュウについても「巨大なジュゴン」と書いているし、不満です。
まあ、訳者の問題も大きいと思いますが。ステラーシーイーグルとか
ステラーシーライオンとか訳しているし(オオワシとトドだろうが)。
日本語でステラーについて書かれた書籍は雑誌には一部ありましたが
単行本では見たことがなかったですから、資料的に買っておいて損は
なかったと思いますが。
まあ、日本でステラーやステラーカイギュウについて知りたいならば
当ブログの
サイドバーにあるマイカテゴリー「海牛(かいぎゅう)」
見て頂くのがいいかと思われます(ちょっと自慢)。
(ステラー海牛については、「ステラー海牛を巡る物語(2)」あたりを、
 
ステラーについては、「ステラー海牛を巡る物語(9)」をご覧頂くと
 おおよその話はわかります。シリーズは全24回。全編面白いはず。)

話は逸れましたが、まあ、多少の不満は残しながら、
私自身はどこか「畳の上で死ねない人」へ何らかのシンパシーがある
ようで、かつて感想文を書いた「荒野へ(into the wild)」でも相当
引き込まれましたし。「死を思え(メメント・モリ Memento mori)」
と言うことかな。今を思うために、死のイメージから離れられない。
「荒野へ」でもそうであったように、時間をかけてこれらの死の虜に
なるのではないかと少し期待と不安を持って読み終えました。

興味はないけど読んで頂いた方へおまけ:

IMG_9668.JPG
我が家のパフィオペディラム
3鉢あるが、いつもこればかりが花を咲かせる


出張の写真があればよかったが、雨で朝の散歩もままならず、
IMG_4547.JPG
雨の落ちる朝の和歌山城。木々はヤドリギがいっぱいついている。
実がなったら写真を撮りたいものだが、実の季節がわからない。

 
IMG_4553.JPG
帰って来て、羽田空港にて、話題のボーイング787。
だけど、外観の特徴の部分がぜんぜん写ってないですね。
ダメ写真の典型ですなー。

以上、おまけでした。

 


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コメント 13

地下木

いやいや、787写真良いですよ!旅情を感じました。
by 地下木 (2012-01-22 22:35) 

Silvermac

早い、遅いの違いはあっても、誰にも等しくに訪れる「死」、その瞬間はどのようなものだろうと色々想像します。
by Silvermac (2012-01-23 09:54) 

ゴーパ1号

読んでみたいけどきっと読まない。と思うな^^;
by ゴーパ1号 (2012-01-23 14:31) 

きまじめさん

美しいパフィオペディラムを拝見して、なんだかほっとしました。
「死」ということば 無意識に避けているみたいです。
そろそろ正面から見つめないといけない年なのですが。
by きまじめさん (2012-01-23 23:21) 

ねこじたん

おいら 最近 いつどうなるかわからないので
部屋をきれいにしとこうと思ってます
部屋が きれいじゃない時は
めちゃめちゃ慎重に めちゃめちゃ警戒して 動いてます(笑
by ねこじたん (2012-01-23 23:51) 

asahama

そんな本があるんですねー
最近じゃ「死」に恐怖しかないから、ちょっと難しいかなぁ。

ヤドリギの実は冬?いえ、調べたわけではないんだけど、
冬の青森で見かけたから。
by asahama (2012-01-24 00:56) 

キタノオドリコ

ワニ、虎、サメ、危険極まりないけど被害者数はそうでもない・・・飛行機事故の確率みたいですね。
あ、私も壊血病を知ったのは、大航海時代以後の船の長旅でしたね。慶長遣欧使節船の日本人は味噌で助かったとか。
by キタノオドリコ (2012-01-24 06:55) 

くまら

ラストブレス、覚えときます
"φ(・ェ・o)~メモメモ
by くまら (2012-01-24 18:23) 

袋田の住職

人の死というもの関わっている仕事上、いろいろ参考になります。
by 袋田の住職 (2012-01-24 19:11) 

チヨロギ

以前ご紹介いただいた「荒野へ」、おもしろかったです。
この「ラスト・ブレス」も、かなり興味をそそられますけど・・・。
読んだら貧血起こしそうです(;゚(エ)゚)
by チヨロギ (2012-01-24 19:19) 

mimimomo

おはようございます^^
何だか面白そうなお話ですね。 わたくしは畳の上で死にたい派ですが、
それでも万に一つは考えますね。 読んでみたいような、読みたくないような・・・
by mimimomo (2012-01-25 09:06) 

psvt.abl

一番楽に死ねそうなのは、どれでしたか?
安楽死って・・・? 
眠っているときに、そのまま死んでしまえれば苦しい思いはしなくていいのかなぁ・・・?
低体温症は「八甲田山死の彷徨」の映画を思い出しますね。 
by psvt.abl (2012-01-25 12:24) 

春分

地下木さん、
> いやいや、787写真良いですよ!旅情を感じました。
ありがとうございます。
何だかそれだけでいい旅であった気がしてきました。

Silvermacさん、
> 早い、遅いの違いはあっても、誰にも等しくに訪れる「死」、その瞬間はどのよう
> なものだろうと色々想像します。
苦しい最後だとしても苦しさから解き放たれて、明るい場所へと昇って行くような
感じらしいと聞いていますが、本当に亡くなった方は語れないのでわかりませんね。

ゴーパ1号さん、
> 読んでみたいけどきっと読まない。と思うな^^;
まあ冒険家とかじゃない限りは買って読むほどでもないと思います。

きまじめさん、
> 美しいパフィオペディラムを拝見して、なんだかほっとしました。
すみません。お清めみたいなものですね。

ねこじたんさん、
> おいら 最近 いつどうなるかわからないので
> 部屋をきれいにしとこうと思ってます
> 部屋が きれいじゃない時は
> めちゃめちゃ慎重に めちゃめちゃ警戒して 動いてます(笑
なるほどー。
ビンラディン暗殺の後、エッチな本が見つかったとの報道があったけども、
本当に米国は敵と見ると容赦ないなと思いましたね。何だかひどいなと。
ということで、恥ずかしいものは処分しないとね。え、そういうことじゃない?

asahamaさん、
> ヤドリギの実は冬?いえ、調べたわけではないんだけど、
> 冬の青森で見かけたから。
ネットをさまよって見るとやはり冬なのでしょうね。

キタノオドリコさん、
> ワニ、虎、サメ、危険極まりないけど被害者数はそうでもない・・・
> 飛行機事故の確率みたいですね。
そんなものなのでしょう。話題性が先行する感じですね。

> 慶長遣欧使節船の日本人は味噌で助かったとか。
なるほど。専門分野ですね。
高田屋嘉兵衛もロシアに連れて行かれた時現地の食べ物を拒否し仲間を
特にアイヌの仲間を失っていますが、本人はなんとか生き延びましたね。
あれも味噌かな。漬物も少しあったでしょうけども。

くまらさん、
> ラストブレス、覚えときます
まあ、話のタネにでもして下さい。

袋田の住職さま、
> 人の死というもの関わっている仕事上、いろいろ参考になります。
どのあたりでしょう。
まあ本当にどこからでも学ぶことはありますけども。

チヨロギさん、
> 以前ご紹介いただいた「荒野へ」、おもしろかったです。
> この「ラスト・ブレス」も、かなり興味をそそられますけど・・・。
> 読んだら貧血起こしそうです(;゚(エ)゚)
そうですね、ここでは書けないような場面は出てきますからねー。

mimimomoさん、
> 何だか面白そうなお話ですね。 わたくしは畳の上で死にたい派ですが、
> それでも万に一つは考えますね。 読んでみたいような、読みたくないような・・・
まーそうですね、読まないほうがいいかもしれません。
しかし、低体温とか高山病とかは知識として知っておこうと思いました。
生きるための技術として何か役に立ちそうに思いました。

psvt.ablさん、
> 一番楽に死ねそうなのは、どれでしたか?
どれもだめです。
どれもこれも頭がおかしくなって死ぬことになるのですよ。
でも、中では雪崩に襲われて生き埋めがまだ楽な感じでしたね。

by 春分 (2012-01-25 21:59) 

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